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      5月5日の日本民話 
        
        
       
食わず女房 
群馬県の民話 → 群馬県情報 
      
       むかしむかし、あるところに、とてもけちな男がすんでいて、いつもこう言っていました。 
「ああ、仕事をうんとするが、ごはんを食べない嫁さんが欲しいなあ」 
 そんな人がいるはずないのですが、ある時、一人の女が男の家をたずねてきて、 
「わたしはごはんを食べずに、仕事ばかりする女です。どうか、嫁にしてくださいな」 
と、言うではありませんか。 
 それを聞いた男は大喜びで、女を嫁にしました。 
 男の嫁になった女は、とてもよく働きます。 
 そして、ごはんをまったく食べようとしません。 
「ごはんは食べないし、よく仕事をするし、本当にいい嫁じゃ」 
 ところがある日、男は家の米俵(こめだわら)が少なくなっているのに気がつきました。  
「おや? おかしいな。嫁はごはんを食べないはずだし」 
 とりあえず、男は嫁に聞いてみましたが、 
「いいえ。わたしは知りませんよ」 
と、言うのです。 
 あんまり変なので、次の朝、男は仕事に行くふりをして、家の天井にかくれて見張っていました。 
 すると嫁は、倉(くら)から米を一俵かついできて、どこからか持ってきた大きなカマで一度にたきあげました。 
 そして塩を一升(いっしょう→1.8リットル)用意すると、おにぎりを次々とつくって、山のように積みあげたのです。 
(お祭りじゃあるまいし、あんなにたくさんのおにぎりをつくって、どうするつもりだ?) 
 男が不思議そうに見ていると、嫁は頭の髪の毛をほぐしはじめ、頭のてっぺんの髪の毛をかきわけました。 
 すると頭のてっぺんがザックリと割れて、大きな口が開いたのです。 
 嫁はその口へ、おにぎりをポイポイ、ポイポイと投げ込んで、米一俵分のおにぎりを全部食べてしまいました。 
 こわくなった男はブルブルとふるえましたが、嫁に気づかれないように天井からおりると、仕事から帰ったような顔して家の戸をたたきました。 
「おい。今、帰ったぞ」 
 すると嫁は、いそいで髪の毛をたばねて頭の口をかくすと、 
「あら、おかえりなさい」 
と、笑顔で男を出むかえました。 
 男はしばらく無言でしたが、やがて決心していいました。 
「嫁よ、実は今日、山に行ったら山の神さまからお告げがあってな、『お前の嫁はええ嫁だが、家においておくととんでもないことになる。はやく家から追い出せ』と、言うんじゃ。だからすまないけど、出て行ってくれんか?」 
 それを聞いた嫁は、あっさりといいました。 
「はい。出て行けと言うのなら、出て行きます。でもおみやげに、風呂おけとなわをもらいたいのです」 
「おお、そんなものでいいのなら、すぐに用意しよう」 
 男が言われた物を用意すると、嫁さんがいいました。 
「この風呂おけの底に穴が開いていないか、見てもらえませんか?」 
「よしよし、見てやろう」 
 男が風呂おけの中に入ると、嫁は風呂おけになわをかけて、男を入れたままかつぎ上げました。 
 ビックリした男が嫁の顔を見てみると、嫁はなんと、鬼婆(おにばば)にかわっていたのです。 
 鬼婆は男を風呂おけごとかついだまま、ウマよりもはやくかけ出して、山へと入っていきました。 
(こ、このままじゃあ、殺される! じゃが、どうしたら?) 
 男はどうやって逃げようかと考えていると、鬼婆が木によりかかってひと休みしたのです。 
(今じゃ!) 
 男はその木の枝につかまって、なんとか逃げだすことができました。 
 さて、そうとは知らない鬼婆は、またすぐにかけ出して鬼たちがすむ村へ到着しました。 
 そして、大きな声で仲間を集めます。 
「みんな来い! うまそうな人間を持ってきたぞ」 
 仲間の鬼が大勢集まってきましたが、風呂おけの中をのぞいてみると、中は空っぽです。 
「さては、途中で逃げよったな!」 
 怒った鬼婆は山道を引き返し、すぐに男を見つけました。 
「こら待てー!」 
「いやじゃ! 助けてくれー!」 
 鬼婆の手が男の首にかかる寸前、男は草むらへ飛び込みました。  
 すると鬼婆は、男の飛び込んだ草むらがこわいらしくて、草むらの中に入ってこようとはしませんでした。 
 男はブルブルふるえながら、いっしょうけんめいに念仏をとなえます。 
 鬼婆は草むらのまわりをウロウロしていましたが、やがてあきらめて帰って行きました。  
「た、助かった。・・・しかし、なんで助かったのじゃろう?」 
 実は男の飛び込んだ草むらには、菖蒲(しょうぶ→サトイモ科の多年生草本で、葉は剣状で80センチほど)がいっぱい生えていたのです。 
 鬼婆は菖蒲の葉が刀に見えて、入ってこれなかったのです。 
 その日がちょうど五月五日だったので、今でも五月五日の節句には、魔除(まよ)けとして屋根へ菖蒲をさすところがあるのです。  
      おしまい 
                  
         
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