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        福娘童話集 > お薬童話 > 更年期障害をやわらげる お薬童話 
         
        
       
一日おくれのショウブ売り 
島根県の民話 → 島根県情報 
      
       むかしむかし、ある村に、とても美しい娘がいました。 
 一人娘だったため、娘が年頃になると、となり村からむこさんをむかえました。 
 二人は村でも評判の、たいへん仲のよい夫婦となりました。 
 ところがむこさんは、美しい嫁さんのそばに少しでも長くいたいので、なかなか畑仕事に行きません。 
 そこで町の絵師(えし→絵描き)に嫁さんの絵姿(えすがた)をかいてもらい、仕事をするときはそれを竹ざおにつけて、畑に立てておくことにしたのです。 
 そんなある時、大風がふいてきて、嫁さんの絵姿がとばされてしまいました。 
 絵姿は空にのぼって、見えなくなってしまいました。 
 さて、この絵姿が落ちたのは、遠い京の都の殿さまの屋敷の庭先でした。 
「なんと! この世にこれほど美しい女がおるとは。お前たち、この絵の女がどこにおるかさがしてまいれ」 
 殿さまはそういって、絵姿の美女をさがし出すよう命じました。 
 そして絵姿の美女を見つけると、殿さまはすぐに京の屋敷につれてこさせました。 
 こうしてむこさんは、むりやり嫁さんと別れさせられてしまったのです。 
 むこさんは、くる日もくる日も、嫁さんの事を思いつづけていました。 
「ああ、もう一度だけ嫁さんに会いたい。嫁さんに会いたい。しかし、殿さまの屋敷の中じゃあ・・・」 
と、苦しんでいると、都からきた商人が言いました。 
「五月五日の端午(たんご)の節句(せっく)の日だけは、ショウブ売りが殿さまの屋敷の中に入れるそうだ」 
 それを聞いたむこさんは喜んで、ショウブを背負うと都へのぼっていきました。 
 けれども五月五日には間にあわず、翌日の五月六日に、やっと都につきました。 
 一日おくれでは、もう殿さまの屋敷へ出入りすることはできません。 
 むこさんはガッカリしながら、大きな屋敷のまわりを、 
「ショウブー! ショウブー!」 
と、大声をあげながら、歩いていました。 
「はて? 節句はきのうのはず。六日のショウブ売りとはめずらしい」 
 屋敷の人は一日遅れのショウブ売りを笑っていましたが、その声を聞いた嫁さんは屋敷の庭を走ると、塀(へい)の外にいるむこさんに声をかけました。 
「あ、あんた。来てくれたんだね」 
「おおっ、お前、お前か」 
「そう、あたしだよ。今は人目があるから、夜中にむかえに来て」 
「よし、わかった」 
 その夜、嫁さんはむこさんと手に手をとって、ふるさとへ逃げていきました。 
 苦しい旅でしたが、二人は山をいくつもこえて、やっと村が見える峠(とうげ)まで逃げてきました。 
「ほれ、寺の赤い屋根が見える。もうすこしだ!」 
 むこさんは嫁さんをはげましましたが、嫁さんはその一言を聞いて、はりつめていた気持ちがいっぺんにゆるんでしまったのでしょう。 
 その場へ崩れるように倒れると、そのまま息をひきとってしまいました。 
 亡くなった嫁さんのふるさとでは、その後、毎年五月六日に紫色のショウブの花を家にかざって、気の毒な嫁さんの霊(れい)をなぐさめるようになったという事です。 
 
※ よく似た話しに、絵すがたよめさんがあります。 
      おしまい 
          
         
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