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 11月26日の日本の昔話
 
  
 空飛ぶ米俵
  むかしむかし、とても欲ばりな長者(ちょうじゃ)がいました。長者の家の蔵(くら)の中には、村人たちをだまして取り上げた米俵(こめだわら)が、いっぱいつみあげています。
 おかげで村の人たちは、お米がなくなって大変こまっておりましたが、長者がこわくて、だれも文句が言えません。
 ある日、長者の前に、どこからか鉄の鉢(はち)がまいおりてきて、ピタッと止まりました。
 「ははあん、こいつが、うわさの鉢だな。あっちこっちへ飛んでいっては、お米を入れてくれと、ねだりよるそうだが・・・」
 長者どんは、
 「あつかましい鉢め、飛んでいけ!」
 と、鉢をけとばしました。
 すると、鉢は蔵の方ヘ、コロコロころがっていき、蔵の下へもぐりこんだかと思うと、蔵をグラグラと持ちあげて、グングン空へあがっていきます。
 「こらあ、待てえ、待ってくれえ!」
 長者は、必死で追いかけました。
 やがて蔵は、高い山の上に、ピタッとおりたちました。
 「わあ、あんな所へおりやがったわ」
 長者は、えっちら、おっちら、山をよじ登っていきます。
 やっと山のてっペんにたどりつくと、そこにひとりの和尚(おしょう)さんが、ニコニコしながら待っていました。
 「わしは、この山で修業(しゅぎょう)をしておるのじゃが、仏さまをお祭りするお堂がのうてな。ちょうどよかった。この蔵をおいていきなされ」
 「やいやい、この米俵は、わしの物じゃ。返せ、返しやがれ!」
 「いやいや、わしは蔵だけあればよろしいのじゃ。中の米俵は持ってお帰り」
 「こんな山から、どうして米俵を運ベるものか! はやく、持ち主であるわしの家にはこぶんだ!」
 「うむ、持ち主の家にはこべばいいのだな?」
 「そうだ、はやくしろ!」
 「承知した」
 和尚さんは、そばにいた鉢に向かって声をかけました。
 「さあ、米俵を持ち主のところに運んでおやり」
 鉢は、一俵の米俵をひょいと持ちあげました。
 「あれあれ、あれえ?」
 なんと、その米俵を先頭に、つぎからつぎへと米俵が飛びはじめたのです。
 米俵の列は、元きた空をグングン飛んでいきます。
 「わあ、待ってくれえ!」
 やっと長者の屋敷まで、もう少しの所まで戻ってきた米俵のむれが、突然、バラバラにちらばって、村の家々に落ちていきました。
 「わあ、お米だ! お米だ!」
 村の人たちは大喜びです。
 米俵は本来の持ち主である、村人たちの手に戻ったのでした。
 それからというもの、長者どんはお米をひとりじめすることもなくなり、あの山の上のお寺には、お参りする人たちがたえなかったそうです。
 おしまい   
 
 
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