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        4月28日の日本民話 
          
          
         
足長手長 
福島県の民話 → 福井県情報 
       むかしむかし、山々にかこまれた会津(あいず→福島県)の盆地(ぼんち)には、小さな村がいくつもありました。 
   村の人たちは毎日朝早くから畑へ向かい、いっしょうけんめい働きました。 
  ♪大きくなあれ、ほーいやさー 
  ♪たくさんなーれ、ほーいやさー 
   秋になると、畑には作物がゆたかにみのります。 
  「豊作(ほうさく)じゃ、豊作じゃ!」 
  「今年も、たくさんとれたぞ!」 
   こうして会津の人々はよく働き、ゆたかに幸せにくらしていました。 
   ところが、ある年のこと。 
   どこからともなく大きなおそろしい怪物(かいぶつ)が長い手足で雲をかきわけて、空の向こうから現れたのです。 
   その怪物は足長手長(あしながてなが)という、夫婦の魔物(まもの)でした。 
   夫の足長はその名のとおりとても足が長く、どんなに遠くても足をのばせばとどきます。 
   妻の手長はおそろしく手が長く、すわったままどんな遠いところの物でもヒョイとつかむことができました。 
   この足長手長の夫婦は、会津の土地をなぜか気に入ってしまったようです。 
   妻の手長は磐梯山(ばんだいさん→福島県の北部、猪苗代湖の北にそびえる活火山。標高1819メートル)の頂上(ちょうじょう)にすわり、夫の足長は会津盆地をひとまたぎしています。 
  「手長よ、そろそろ始めるか」 
  「はいよ、足長」 
   二人の魔物は声をかけあうと、すぐに足長の足がグングンとのびはじめて、あちらこちらにある雲をつかんでは会津盆地の上に集めます。 
   雲は畑しごとをしている人たちの頭の上をおおい、みるみるうちにあたりは暗くなっていきました。 
  「今度はおめえだ、手長や」 
   すると手長はその長い手で、猪苗代湖(いなわしろこ→福島県の中央部、湖面標高514メートル。最大深度94メートル。周囲63キロメートル。面積103平方キロメートル)の水をすくってばらまきます。 
   それはものすごい大つぶの雨となって、畑仕事をする人々の上にふりかかりました。 
  「あっはっはっは、見てみろ、あのあわてぶり!」 
   足長と手長のせいで、毎日毎日、会津は暗い雨の日がつづきました。 
   村の人たちは、ほとほとこまりました。 
  「このままではたいへんだぞ! おてんとさまが出ないおかげで、家のダイコンがさっぱり大きくならん」 
  「家もだ。このまま作物がくさっちまったら、おらたちどうなるだ?」 
  「うえ死にじゃあ。はらをすかして死ぬしかねえ」 
  「なんとか、雨がやんでくれんかなあ」 
   こんな村の人たちのようすを見て、足長手長は大喜びするのです。 
   そしてまた、何かイタズラをを考えたようです。 
   そのうちに雨はやんで、雲のすきまからお日さまが顔を出しました。 
  「おお、お日さまじゃ! これでたすかるぞ!」 
  「よかった、よかった」 
   大喜びの村人たちが、空を見上げたときです。 
   雲のすきまから、おそろしい怪物が顔を出していたではありませんか。 
  「あーっ、何じゃ、あれは!」 
   足長手長は、ふるえる村人たちを見ておもしろがると、 
  「あはははは。こうやって、太陽をかくしてやるよ」 
  と、手長が手をのばして、太陽の光をかくしてしまいました。 
   それだけではありません。 
   次のイタズラは、首をのばして作物に大きく息をふきつけ、作物を根元からふきとばすのです。 
   次から次へとイタズラをくりかえす足長手長を、村人たちはどうすることもできません。 
   そんなある日の事、ボロボロの衣をまとった弘法大師(こうぼうだいし)という名のお坊さんが、この会津の村にやってきました。 
  「これはひどい、あまりにもひどい」 
   お坊さんはあれはてた村のようすにおどろいて、村の人たちに話をききました。 
  「うーむ。それは聞きずてならんことじゃ。よし、わしの力でその魔物をこらしめてやろう」 
   お坊さんは、すぐに磐梯山の頂上にのぼりはじめました。 
   そして頂上に着くと、大声でいいました。 
  「足長手長! わしはここをとおりかかった旅の僧じゃ。姿を見せんか!」 
   お坊さんの声に、足長と手長が現れました。 
  「わっはっはっは、なんともきたない坊主じゃな」 
  「足長手長。わしのいうことをよく聞け! お前らは、どんな事でもできると思っとるだろうが、どんなにがんばってもできん事があるぞ」 
  「何をいう。この世の中に、わしらにできぬことは何一つないわ」 
  「そうか、ならばわしのいったとおりの事をやってみろ。もしできなければ、お前たちはすぐにこの会津の土地を出ていくのだ」 
  「よしわかった。どんな事かいってみろ」 
  「うむ。それはだな」 
   お坊さんは、ふところから小さなつぼをとりだしていいました。 
  「足長手長よ。お前らはずいぶんと大きななりをしている。二人一緒に、こんな小さなつぼに入ることはできんじゃろう? どうじゃ、まいったか。わっはっはっは!」 
  「なにをぬかす。できたらお前の命をもらうぞ! いいな! ではいくぞ、手長」 
  「あいよ、足長」 
   二人は声をかけあうと、みるみるうちに小さくなってつぼの中へ入ってしまいました。 
   そのとたん、お坊さんはつぼのふたをしめると、衣をちぎってしっかりとつぼをつつんでしまいました。 
  「こら! なんじゃあー! ここからだせ! ふたをあけろー!」 
   つぼの中で足長手長が、大声をあげながらあばれます。 
  「バカもの! 人々を苦しめたばつとして、お前ら二人はこのままずっとこのつぼの中に入っておれ!」 
   お坊さんはそのつぼを磐梯山の頂上にうめると、大きな石をのせて、二度と出てこられないようにしました。 
   つぼの中で足長手長がくやしがってあばれておりましたが、お坊さんの術がかかっているのか、つぼのふたはビクともしません。 
   やがて二人はあきらめたのか、しずかになりました。 
  「お前たちはこれからはこの山の守り神として祭ってやるから、村人たちのためにつくすがよいぞ」 
   こうして、足長手長は弘法大師によって退治されたのです。 
      おしまい 
                  
 
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