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        福娘童話集 > お薬童話 > 更年期障害をやわらげる お薬童話 
         
        
       
テッジ 
東京都の民話 → 東京都情報 
      
       むかしむかし、八丈島(はちじょうじま→東京都)に、菊池虎之助(きくちとらのすけ)と、いう神主(かんぬし)さんがいました。 
 虎之助はある時、庭に八本柱のりっぱな蔵(くら)をつくりましたが、なん日かすると家の人が、 
「夜になるとあの蔵に、何にやらえたいの知れないバケモノが出るんです」 
と、いいだしたのです。 
「神さまをまつっている神主の家の者が、自分の家にバケモノが出るとはなにごとだ! だいたいバケモノなど、この世にはいないんだ。しっかりしろ!」 
 虎之助は、しかるようにいいました。 
 それでもやはり夜になると、蔵の中でおかしな物音がすると、家の人がいうのです。 
 虎之助は、 
「いつまでもバカな事をいっているではない。夜になると物音がきこえるというのは、新しい蔵の方がいごこちがいいというので、家にいるネズミどもがひっこしでもしたんだろう」 
と、話しを聞いてくれません。 
 けれども、こんな話しがうわさとなって島中に広がりだしたら大変です。 
 そこで虎之助は、島の若者たちにたのんで、しばらく蔵の中で寝てもらうことにしました。 
 次の日の朝、蔵の中から出てきた若者にたずねると、若者たちはニコニコして、 
「まだまだ新しい木のかおりがして、まるで極楽(ごくらく)にいるようでした。朝まで一度も目をさましませんでしたよ」 
と、答えました。 
「それみろ。つまらないことをいわずに、お前たちも今夜から蔵の中で寝たらどうだ? ぐっすり休めるぞ。あはははは」 
 虎之助は、これで家の人も安心しただろうと思いましたが、ところが次の日の朝になると、若者たちは青い顔をして蔵の中から出てきたのです。 
「何か、あったのかね?」 
 虎之助が、たずねると、 
「夜中に蔵がギシギシとゆれだして、昨日の夜はぜんぜんねむれませんでした。いつ蔵がつぶれるかと思いました。もう、こんなおそろしいところに寝るのはいやです!」 
 若者たちは、逃げるようにして帰っていきました。 
 そこで虎之助は夜になると、刀(かたな)を手に庭のかたすみにかくれて、自分でようすをうかがうことにしました。 
 蔵のわきにある大木のてっぺんの枝に、ちょうど十三夜のかけた月がかかったときです。 
 ザワザワと、うら山の木々がさわぎだしました。 
 そして二メートルをこえる大きなかげのようなものが、風にのって林の中から走ってきたかとおもうと、蔵の戸口にとりついて、カギのかかった戸を無理やり開こうとゆさぶりはじめたのです。 
 蔵は船のように、グラグラとゆれだしました。 
 そのとき、人の気配を感じたのか、大きな黒いかげがふりむきました。 
 茶わんほどもある大きな目玉が、白く光っています。 
 口からはくいきはほのおのように赤くもえて、葉っぱをまとった体のむねから上ははだかです。 
 そして長くたれさがった右のおっぱいを左のかたに、左のおっぱいを右のかたの上にひっかけていました。 
「あいつは、テッジだな」 
 虎之助は、つぶやきました。 
 テッジというのは、八丈島の山の中にすんでいるというバケモノです。 
 虎之助は信じていませんでしたが、そいつはいたのです。 
(けれども、どうしてそのテッジが、新築したばかりのわしの家の蔵へやってきたのだろう) 
 テッジは戸をあけようとして、またはげしく蔵をゆすりました。 
(あんなバケモノに蔵をつぶされてなるものか。神主の家がバケモノにねらわれているなんて、大わらいではすまされぬ。よし、今だ!) 
 虎之助は手にしていた刀のさやをはらいのけると、両手ににぎりしめて走っていきました。 
 そして体当たりするように、テッジのからだに刀をつきさしました。 
「ギャオーッ!」 
 ふいをくらったテッジは大声をあげて身をひるがえすと、風のようにうら山へにげていきました。 
 つぎの日の朝、虎之助は家の者と一緒に、血のあとをたどって山へ入っていきました。 
 てんてんとつづく血のあとは、大きな岩の前できえています。 
 しかしその血は赤ではなく、たまごのきみのように、黄色だったという事です。 
      おしまい 
          
         
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