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 12月19日の日本民話
 
  
 ウメの実になったお化け
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  むかしむかし、あるところに、バケモノ屋敷(やしき)といわれる家がありました。おそろしいお化けが出るというので、日がくれるころにはだれも近よるものがいません。
 ところが、このうわさを聞いたお侍(おさむらい)が、
 「何と情けない。お化けぐらい。わしが退治してくれよう」
 と、言って、お酒の入ったひょうたんを腰にぶら下げて、日がくれるのを待ってバケモノ屋敷へ出かけました。
 長いこと人が住んでいないので、庭には人間の背丈(せたけ)ほどもある草がはえて、ザワザワと風にゆれています。
 雨戸(あまど)はやぶれて、床のあちこちが抜け落ち、天井はクモの巣だらけです。
 普通の人なら逃げ出すでしょうが、さすがは勇気のあるお侍、一番広い座敷(ざしき)のまん中に座ると、腰のひょうたんをはずして、チビリチビリとお酒を飲みはじめました。
 でも、いつまでたってもお化けが出てきません。
 「何をグズグズしておるのだ。早く出てこい!」
 お侍がどなりましたが、物音一つ聞こえません。
 そのうちにだんだん夜がふけて夜中になると、どこからともなく生あたたかい風がふいてきて、
 ヒューーー、ドロドロドロドロー。
 と、一つ目小僧が現れたのです。
 長い舌を出したり引っこめたりしながら、お侍のまわりをゆっくりまわります。
 でも、お侍は平気です。
 「なんだ、一つ目小僧など、ちっともこわくない。もっとこわいお化けはいないのか?」
 すると今度は、口が耳までさけて、キバをむきだしたお化けが出てきました。
 「何だ、まるでツノのないオニだな。ツノがなくてはこわくないぞ」
 お侍がからかうと、今度は本物のオニが出てきました。
 「ほほう。少しはマシになったが、オニなどめずらしくもなんともない」
 それを聞いて、ろくろ首、カラカサお化け、大入道などが、次々と出てきました。
 それでもお侍は、平気な顔で、
 「ただ出てくるだけでは芸がない。みんなでおどれ、おどれ」
 と、言いました。
 こまったお化けたちは、しかたなく、いっせいにおどりはじめました。
 「いいぞ、いいぞ」
 お侍はお酒を飲みながら、うれしそうに声をかけました。
 そのうちに、お化けたちの姿が消えて、座敷一面に花がさきました。
 ウメやモモやサクラの花がかさなるように広がり、まるでお花見をしている気分です。
 「こいつは、きれいだな」
 さすがのお侍も、その美しさには目をみはりました。
 ちびりちびりお酒を飲んでいるうちに、お酒のさかながほしくなりました。
 そこで、
 「何か、酒のさかなになるようなものを出してくれないか。たくあんでも、ウメボシでもいいんだが」
 と、言いました。
 すると美しい花がパッと消えて、小さなウメの実になってころがりました。
 お侍は、そのウメの実をすばやく口に入れるると、
 ガリガリッ
 と、かみくだいて、お酒といっしよに飲みこんでしまったのです。
 そんなことがあってから、この屋敷にはもう二度と、お化けが出なくなったという事です。
 おしまい   
 
 
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