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 元旦の日本民話
 
  
 死の国へはこぶ火の車
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  むかしむかし、あるところに、又吉(またきち)というならず者がいました。若い頃からのならず者で、けんかや賭け事はもちろんの事、時には借金取りの用心俸(ようじんぼう)になって、寝ている病人のふとんまではぎ取ったそうです。
 その又吉もすっかり年を取って、一人娘の家で病気の体をいやしていました。
 又吉の娘は近所でも評判のとてもやさしい娘で、お婿さんと一緒に又吉のめんどうをみていました。
 ところが、又吉の体は、日に日に弱っていきます。
 医者から、
 「いよいよ、今夜あたりがとうげだ」
 と、言われた日の夜、家のすぐ近くに人魂(ひとだま)が現れました。
 それを見た人たちは、
 「何か不吉な事が、おきなければいいが」
 と、ビクビクしていました。
 
 真夜中頃、又吉の具合が急に悪くなりました。
 驚いた娘は、お婿さんに頼んで、すぐに医者を連れて来てもらいました。
 医者はむずかしい顔をして、又吉の手の脈をとりました。
 「いかん。心臓がひどく弱っている。・・・だが、今夜がんばれば、まだ少しは持つだろう」
 ところがその時、まわりが急に明るくなったかとおもうと、火の車を引く赤鬼が現れたのです。
 驚いて逃げようとする又吉を、赤鬼はいきなり抱き上げて火の車に乗せました。
 「いやだ! まだ死にたくない!」
 どこにそんな力があったのかと思うくらい、又吉は大声をはりあげてもがきました。
 娘とお婿さんも、泣きながら手を合わせて頼みました。
 「お願いです! どうか父を、連れて行かないでください!」
 あまりの出来事に、医者はただ、うろうろするばかりです。
 赤鬼は、娘とお婿さんに向かって言いました。
 「こやつの罪は、死んだからと言って、償える物ではない。地獄の苦しみを、生きたまま味合わなければならん」
 そして泣き叫ぶ家の者をあとにして、赤鬼の引く火の車は又吉を乗せたまま、はるか東の空にのぼっていったという事です。
 おしまい   
 
 
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