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 12月9日の日本民話
 
  
 たばこのおかげ
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  むかしむかし、上総(かずさ→千葉県)の鹿野山(かのうざん)では、山を越える人が何人も行方不明になりました。「鹿野山には化け物がおって、そいつが人間をさらっていくらしいぞ」
 そんなうわさが流れたので、里の人たちは鹿荷山に近づこうとはしませんでした。
 しかし鹿野山を越える道はほかにないので、鹿野山を越える人はどうしてもそこを通らなければならなかったのです。
 
 ある日の事、たばこをたくさん仕入れた商人が、この鹿野山にさしかかりました。
 しばらくすると、
 「グワーッ!」
 と、きみょうな音がして、大木のような大蛇がこっちへむかって来たのです。
 「うひゃーっ、助けてくれー!」
 商人は、逃げて逃げて逃げました。
 しかし人間がいくら走ったところで、大蛇の速さにはとてもかないません。
 大蛇は商人の、すぐ後ろまで来ていました。
 (とても逃げ切れねえ! どこかにかくれないと!)
 商人がふと見ると、道ばたの大きな木の根っこに穴が開いていました。
 (よし、ここだ!)
 商人がその穴に飛び込んだその時、
 ガブリッ!
 と、大蛇が大口を開けて、背中にかみついたのです。
 「ウギャーーー!」
 商人は思わずさけびましたが、大蛇がかみついたのは背中にかついだたばこのふろしきでした。
 大蛇はそのたばこのふろしきを、ゴクリと一口に飲み込んでしまいました。
 (あわわわわ、もうだめだ、今度こそ食べられる!)
 商人は腰が抜けてしまい、動く事が出来ません。
 しかしどうした事か、大蛇もなかなかおそってはきませんでした。
 (よっ、よし、今のうちだ)
 商人は起き上がると里へ逃げ帰り、里のみんなに言いました。
 「大蛇じゃ! 人を食う化け物の正体は、大蛇じゃ!」
 
 さて、それから数日後、里の若者にどうしても鹿野山を越えなくてならない用事が出来ました。
 「大蛇が、出なければよいが」
 若者がびくびくしながら山道を急いでいると、道に白い大木の様な物が倒れていました。
 「あれは、なんじゃ? 木が倒れたのか?」
 よく見ると、それはあの大蛇です。
 しかし大蛇は白いお腹を上へ向けたまま、ぴくりとも動きません。
 「はて? あいつ、動かぬぞ」
 どうやら大蛇は、死んでいる様子です。
 若者は勇気を出して、大蛇に近づきました。
 近寄ってみると、大蛇はやっぱり死んでいました。
 「それにしても、どうしてこんなところで死んでおるんじゃろう?」
 しばらく考えていた若者は、大蛇の口元にたばこの葉っぱがついているのを見つけました。
 「なるほど、いくら大きな大蛇でも、たばこの毒には勝てなかったか」
 たばこの葉っぱはそのまま食べると、とても強い毒になります。
 男は用事をすませて里に帰ると、死んだ大蛇の事を話しました。
 「やれやれ。これで安心だわい。だが用心のために、これから鹿野山を越える時は、必ずたばこを用意しよう」
 
 それから鹿野山を越える人は、たばこを持って行く事にしたそうです。
 おしまい   
 
 
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