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福娘童話集 > きょうの日本民話 > 8月の日本民話 > 最後を知らせ歩いた先生 
      8月12日の日本民話 
          
          
         
  最後を知らせ歩いた先生 
  静岡県の民話 → 静岡県情報 
      
       むかしむかし、ある町に、林斎(りんさい)という学者が住んでいました。 
   ある年の六月の始め頃から、林斎は知りあいの人たちのあいだをまわって、 
  「これまで、いろいろお世話になりました。わたしは八月十二日、往生(おうじょう→あの世へ行くこと)することにしました」 
  と、いうのでした。 
  「林斎先生は勉強のしすぎで、少しおかしくなってきたのかねえ」 
  「まじめな顔をして、よくもあんなホラがふけるものだ。林斎先生は最近、お金にこまっておるときいたから、先に香典(こうでん)をよこせといわれるのかと思ったよ」 
  「こっちはどう返事をしたらいいのか、とまどっちまったよ。縁起(えんぎ)でもねえから、先生が帰ったあとに塩をまいたんだ」 
  と、あいさつをされた人たちは、だれもまともにうけとりませんでした。 
   ところが、八月十一日のことです。 
   林斎は、町のお寺へでかけていき、 
  「わたしは明日死にますので、どうか、お棺(かん)の用意をお願いいたします。そのお棺は・・・」 
  と、自分からお棺を注文(ちゅうもん)をしたのです。 
   お寺の人はあきれましたが、相手は名の知れた学者ですので、むげに断わることもできないと思い、 
  「わかりました。それでは、そのように用意させていただきましょう」 
  と、林斎の望みどおりにすることにしました。 
   一夜が明けて、いよいよ八月十二日がやってきました。 
   林斎は死んだ人がまとう白い衣を着て、ゆっくりした足どりで、お寺へやってきました。 
   そして、自分が注文したお棺のできばえに満足して、その中へ横になると、 
  「では、これで。あとはよろしくお願いします」 
  と、お棺のふたをしめさせました。 
   中からは、しばらくお経のようなものがきこえていましたが、やがてきこえなくなりました。 
   お寺の和尚(おしょう)さんが、 
  「ねむってしまったのかもしれんな。しかし、なんのためかわからんが、先生もイタズラがすぎる。どれ、ちょっとのぞいてみよう」 
  と、いって、小僧さんにふたをすこしあけさせました。 
  「あっ!」 
   中をのぞきこんだ小僧さんビックリ。 
   林斎は両目を見ひらいたまま、本当に死んでいたという事です。 
      おしまい 
         
         
         
        
 
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