| 福娘童話集 > きょうの日本民話 > 8月の日本民話 >田上(たがん)のキツネ
 8月20日の日本民話
 
  
 田上(たがん)のキツネ
 鹿児島県鹿児島市の民話 → 鹿児島県情報
 
 ・日本語 ・日本語&中国語
  むかし、鹿児島の田上(たがん)と呼ばれるあたりに、まだキツネがいた頃のお話です。一人の百姓があぜ道でたばこをふかしていると、わきの草やぶで何かごそごそと音がしました。
 「何じゃろう?」
 じっと見ていると、一匹のキツネがツワの葉をちぎってはやぶの上に敷いて、それが終わると今度はツワの汁を体中にこすりつけているのです。
 「はて、不思議な事をするもんじゃ」
 そして体中が汁だらけになったキツネは、ごろんごろんとツワの葉の上で転がりました。
 「ははーん。こりゃ、何ぞに化けるところじゃな」
 そのうちキツネは、それはきれいな女の子に化けてしまいました。
 「へー、大したもんじゃ」
 
 さて、百姓が見ていたとは知らないキツネが、すました顔で村の方に行こうとするので、百姓は思いきって声をかけました。
 「キツネよ、よう化けたもんじゃな。まこと、べっぴんなおなごじゃ」
 するとキツネはびっくりして、百姓に言いました。
 「おじさん、見ていたの?」
 「ああ、始めから見とったぞ。
 じゃが、わしが思うに、キツネはやっぱりキツネでいる方がええぞ。
 いくらべっぴんに化けても、人間には尻尾など生えておらんからな」
 「えっ?」
 キツネがお尻に手を当てると、百姓の言うようにキツネの立派な尻尾はそのままでした。
 娘に化けたキツネは顔をまっ赤にすると、はずかしさに顔を押さえながら逃げていきました。
 
 それからこの田上には、キツネが現れなくなったそうです。
 おしまい   
 
 
 |