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 8月22日の日本民話
 
  
 三百歳の仙人
 奈良県の民話 → 奈良県の情報
 
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  むかしむかし、大和の国(やまとのくに→奈良県)の十津川(とつかわ)という所に、木こりたちが暮らす家がありました。ここは山に囲まれた深い谷間で、一度道に迷うとなかなか帰ってはこれません。
 そこで木こりたちは、何人かずつが一緒になって仕事をするのです。
 
 ある日の事、五人の木こりが山奥で、大木を切っていました。
 そろそろお昼ご飯にしようと思っていると、茂みの向こうから、まっ赤な顔をした全身毛むくじゃらの鬼のような男が現れたのです。
 「おっ、鬼だーー!」
 気の強い一人が木こりが、持っていたオノを振り上げました。
 すると毛むくじゃらの男が、手を振って言いました。
 「待ってくれ! わしは、怪しい者ではない。この山で暮らしている、人間だ!」
 人間と聞いて木こりたちは安心しましたが、でも、木こりでもない人間が、こんな山奥に住んでいるのは変です。
 そこで、一番年上の木こりが尋ねました。
 「どうして、こんな山奥に住んでいる?!」
 「わしは、十津川の向こうにある、熊野の村の人間だ。十八の時に両親が亡くなったので、それ以来ここで暮らしている」
 「そうか。それで、わしらに何の用だ?」
 「すまんが、塩をわけてくれ。大事に使ってきたが、とうとうなくなってしまった」
 男は塩の代金だと言って、自分で捕まえた鳥やウサギを差し出しました。
 この男は山の中で人の声がすると、こうして塩をもらう事にしているのだそうです。
 ところが多くの人は男の姿を見ただけで逃げてしまい、塩の話しをするどころではなかったそうです。
 「さては、この山に現れる鬼の正体は、お前さんであったか」
 この山では何人もの木こりたちが、鬼を見たと言っていたのです。
 「しかし、こんな何もない山奥で、よく一人で暮らせるものだ。いつ頃から、ここに住んでいるのだ?」
 「ずいぶんと前なのではっきりとは覚えていないが、山に入るころの年号は、たしか文安(ぶんあん→一四四四年〜一四四九年)とか言っていたように思うが」
 「文安? そんなに、長い間も?!」
 木こりたちは、あらためて驚きました。
 「文安と言えば、今から三百年以上も前ではないか。これでは鬼ではなく、仙人だ」
 「まったくだ。大した長生きだな」
 その後、男は木こりたちから塩をゆずってもらうと、また山奥へと姿を消してしまいました。
 
 この仙人、今もどこかで生きているのかもしれませんね。
 おしまい   
 
 
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