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8月3日の日本民話

けがの功名

けがの功名
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 むかしむかし、ほうろく(→素焼きの土なべ)売りの男が夜遅くまで売り歩きましたが、今日は一つも売れませんでした。
(あーあ、これでは今日もご飯抜きだな)
 疲れ果てた男がトボトボ歩いていると、道の真ん中に一人の(さむらい)が寝ていました。
(なんでこんなところに? もしかして、行き倒れか?)
 男はそうおもって、寝ている侍をじっと見ました。
 侍は、少しも身動きしません。
(これは、死んでいるな。だが、確かめてみないことには)
 男はそばに落ちていた棒きれで侍を突きましたが、侍は動きません。
 ためしに侍のふところに手を入れてみると、侍の体は石のように冷たくなっています。
(うん、間違いなく死んでおる)
 男は侍のふところをさぐって、侍の紙入れ(かみいれ→さいふ)を取り出しました。
 中を見ると、お金がたくさん入っています。
(ありがたや。これは天のめぐみにちがいない)
 男は侍の紙入れを持ったまま、いちもくさんに逃げ出しました。
 そして途中で立ち止まり、キョロキョロと辺りを見回しましたが、辺りには誰もいません。
 そこで男はまた、侍の所に戻りました。
 そして侍のをはじめ、ふんどし以外の身につけている物を全てはぎ取ると、そのまま家に飛んで帰りました。
(ほうろく売りは、もうやめだ。おれは明日からは、侍じゃ)

 次の朝、男は侍の姿になると、町へ行ってみました。
 町の中央には大きな立て札があり、大きな字で何やら書いてありました。
 ほうろく売りの侍は字が読めないので、何を書いてあるかわかりません。
 するとそこへ一人の老人が現れて、ほうろく売りにたずねました。
「そこのお侍さま。さっきからそこで、何をしておいでですか?」
「いや、その・・・」
 侍のくせに、字が読めないなんて言えません。
 そこでほうろく売りは、字を指さして、
「うむ、実はこの字があまりにも見事な物で、つい見とれてしまったのじゃ。しかしくせがありすぎて、何とも読みにくい字じゃ」
と、うまくごまかして、老人から立て札に書いてある事を聞き出しました。
 老人の話によると、この町の金持ちの家に化け物が出るので、その化け物を退治してくれた者には、一人娘の婿(むこ)にすると書いてあるそうです。
(金持ちの娘婿になるのか。それはよい話しだ)
 ほうろく売りは金持ちの家に行くと、大声で言いました。
「わしは、日本中を武者修行しておる者。腕試しに、化け物を退治してくれようぞ」
 喜んだ金持ちは、ほうろく売りにごちそうをすると、二階の広い部屋に泊めてくれました。

 さて、ほうろく売りが泊まった広い部屋には、ヤリ、なぎなた、弓、鉄砲などの武器がたくさん置いてありました。
「ほう、化け物退治の武器も用意しているのか」
 ほうろく売りには鉄砲を手に取ると、珍しそうにあちこちいじっていました。
 するといきなり、
 ズドン!
と、鉄砲の玉が飛び出してしまったのです。
「うわっ、しまった! どうしよう?!」
 ほうろく売りがおろおろしていると、この家の番頭(ばんとう)が飛び込んできて言いました。
「お侍さま、まことにありがとうございました。
 実はたった今、押し入れから化け物が出てきたのです。
 そこでお侍さまに報告しようとしていたところ、お侍さまが撃った鉄砲の玉で化け物が見事にしとめられました」
「へえ、そうなの?」
「ありがとうございます。本当にありがとうございます」
 こうしてほうろく売りは、めでたく金持ちの一人娘の婿となったのです。

 すご腕の侍が金持ちの家の婿になったという評判(ひょうばん)は、たちまち町に広がりました。
 すると村の百姓(ひゃくしょう)がたずねてきて、
「大蛇(だいじゃ)に、田畑を荒らされて困っています。どうか、お侍さんの力で退治してください」
と、たのみました。
 ほうろく売りは、
(蛇はこわいから、いやだな)
と、思いましたが、評判の手前、断ることは出来ません。
 そこでしぶしぶ、大蛇退治を引き受けました。

 さて、ほうろく売りの嫁になった金持ちの娘ですが、娘はこのほうろく売りがどうにも気に入りません。
 そこでほうろく売りを殺そうと、ほうろく売りの弁当に毒のにぎりめし入れておきました。

 百姓に案内されて大蛇の出る村に着くと、村人たちはボロボロの小屋にほうろく売りを案内しました。
「大蛇は、夜中に現れます。では、よろしくお頼みいたします」
 真夜中になると、ゴーゴーと気味の悪い音がして、なまぐさい風とともに恐ろしい二つの光が小屋に近づいて来ました。
 その二つの光は、大蛇の目の光です。
(あわわわ、何て大蛇だ。あんなのに勝てるわけがない)
 怖くなったほうろく売りは小屋を飛び出すと、小屋のそばにあるカキの木に登って、ふんどしで体を木にくくりつけました。
(神さま、仏さま、どうか見つかりませんように)
 ほうろく売りが木にしがみついて震えていると、大蛇は大きな口を開けながら、カキの木を登ってきたのです。
「わあ、来るな、登るな、あっちへ行け!」
 ほうろく売りは怖さのあまり、木の上でバタバタと暴れました。
 するとそのはずみに、ふところに入れていた毒のにぎりめしが転がり出て、大蛇の口の中へ落ちたのです。
「ウギャーーー!」
 毒のにぎりめしをのみ込んだヘビは、うめき声を上げながらバタバタとあばれましたが、やがて静かになりました。

 次の朝、一晩中、木にしがみついていたほうろく売りが、明るくなってから下を見てみると、毒のにぎりめしをのみ込んだ大蛇が死んでいました。
 ほうろく売りは木からおりると、死んだヘビの両目に一本ずつ矢を突き刺しました。
 しばらくしてやって来た村人たちは、両目を見事に矢でいぬかれて死んでいる大蛇を見てびっくりです。
「さすがは、すご腕のお侍さまじゃ!」

 この大蛇退治の評判は、殿さまの耳にも入りました。
「そのような見事な腕前を持った者なら、わしの家来(けらい)にしたい」
 殿さまの家来たちは馬を用意すると、ほうろく売りを迎えに行きました。
「ささ、殿がお呼びです。この馬に乗って、城まで来てください」
「えっ、馬に?」
 ほうろく売りは馬に乗った事がないので、一番後から馬の背中にしがみついて行きました。
 でも、途中の川を馬で渡る時に、ほうろく売りは川へ落ちてしまいました。
「大丈夫ですか? おけがはありませんか?」
  それに気がついた家来たちが戻ってみると、川に落ちたほうろく売りは、たまたまふところに飛び込んできた大きなコイを取り出して言いました。
「初めてお目にかかるお殿さまに、何の手みやげがのうてはまずいからな。ちょうど手ごろなコイを見つけたので、川に飛び込んだのじゃ」
 それを聞いた家来たちは、すっかり感心しました。
 こうしてほうろく売りは、何とか殿さまの前にやって来ました。
「お主の評判は聞いておる。お主を侍大将として迎えたいが、どうじゃな」
 いきなり侍大将とは、大変な出世です。
「侍大将に? ははっ、ありがたくお受けいたします」
「うむ、頼んだぞ。ところで、お主の評判の腕前を、わしに見せてくれぬか。わしの家来たちと勝負をして欲しい」
「勝負を? ・・・これは、いたくこまりもうした」
 ほうろく売りは、もちろん剣術など知りません。
 なんとか逃げようと考えましたが、ほうろく売りの幸運もこれまでです。
 ほうろく売りは家来たちに、さんざんに打ち叩かれました。
「たっ、助けてくれー!」
 ほうろく売りは叫びながら、死にものぐるいなって逃げ回っているうちに、ふと目が覚めました。
「はっ、ここは?」

けがの功名

 顔を上げると、ほうろく売りの奥さんが怖い顔でにらんでいました。
「あんた、いつまで寝ているの! はやく仕事に行きなさい!」
 実は今までの事は、みんな夢だったのです。
 仕事の時間だというのにいつまでも寝ているので、奥さんがほうろく売りの頭をたたいていたのでした。

おしまい

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