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 7月16日の日本民話
 
   
 のぎよけ大師
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  むかしむかし、ある浜辺に、関五左衛門(せきござえもん)という、貧乏な男が住んでいました。その五左衛門の家に、旅の途中のお坊さんがやってきたのです。
 「すみませんが、今夜一晩、あなたの家に泊めてくださいませんか?」
 すると五左衛門は、ニッコリ笑い、
 「これはこれは、お坊さま。貧乏で大したもてなしも出来ませんが、どうぞお泊まりください」
 と、こころよくお坊さんを家の中に入れると、自分が食べるはずのご飯でお坊さんをもてなしました。
 
 さて、それから数日後の事です。
 晩ごはんを食べていた五左衛門の息子が、魚の骨をのどに刺して苦しみ出したのです。
 「しっかりしろ、大丈夫か?!」
 五左衛門が息子ののどを見てみても、骨はどこにも見あたりません。
 しかし息子は苦しさのあまり、ぐったりしてしまいました。
 「どうすれば、どうすればいいのだ?!」
 五左衛門がおろおろしているところへ、この前のお坊さんが突然現れました。
 「何やら良くない気配を感じて戻ってきたが、息子さんがのどに骨を刺しているのか。
 よしよし、わたしがおまじないをしてあげよう。
 すまないが、水をくんで来てくださらんか」
 「はっ、はい」
 五左衛門が言われた通り手おけに水を入れてくると、お坊さんは持っていたおわんに水をそそいで、その上に、はしを十文字に置いたのです。
 そしてお経の様なものを唱えながら、息子の口へそのはしの間から水を注いで飲ませました。
 すると不思議な事に、ぐったりしていた息子が『ごほん』とせきをして、のどに刺さっていた大きな骨がポロリと出てきたのです。
 のどに刺さっていた骨が取れた息子は、すぐに元気になりました。
 「ありがとうございます。本当に、ありがとうございます」
 何度も何度もお礼を言う五左衛門に、お坊さんはにっこり微笑んで言いました。
 「五左衛門さん。こちらこそいつかのご親切を、まことにありがたく思っています。
 そのお礼に、この木像と、のぎよけのおまじないを教えましょう」
 そう言ってお坊さんは五左衛門に木像を渡し、のぎよけのおまじないを詳しく教えてくれました。
 そしてお坊さんはみんなが見ている前で川の飛び石に飛び乗り、そのまま煙のように姿を消したのです。
 「あのお坊さまは、きっと弘法大師さまじゃ」
 心を打たれた五左衛門さんは、この村に大師堂を建てると、もらった木像をおまつりしました。
 そして、のどに小骨が刺さった人や目にのぎ(→イネ科の植物の花にある針のような突起)が入った人がいると、五左衛門はこのお堂で教えてもらったのぎよけのおまじないをしてやり、多くの人を助けたそうです。
 
 やがて村人たちは、弘法大師のことを『のぎよけ大師』と呼ぶようになりました。
 そして弘法大師が足をかけて姿を消した石が『大師ふみどめの石』として、今でもお堂の中に残っているそうです。
 
 おしまい   
 
 
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