|  |  | 福娘童話集 > きょうの百物語 > 4月の百物語 > 弥じゃどんの首
 
 4月17日の百物語
 
 
  
 弥じゃどんの首
 
 ・日本語 ・日本語&中国語
  むかしむかし、弥(や)じゃどんという名前のお百姓が、隣村へ行こうと舟で川を渡っていました。舟の上から流れを見ると、きれいに澄んだ川底に大きな川ガニが何匹も見えています。
 「おっ、カニじゃ。こいつは蒸して食うと、うまいんじゃ」
 弥じゃどんはカニを捕まえようと、かついでいた草刈(くさかり)ガマの先で川ガニを追い回しました。
 すると、
 ポッチャーン!
 と、音がして、川の中へ何かが落ちました。
 何とそれは、弥じゃどんの首でした。
 弥じゃどんは、うっかり自分の首を、カマでバッサリと切り落としてしまったのです。
 「はて?
 どこかで、見た様な顔じゃが。
 どこで見た、顔だったかな?
 ・・・えーと、そうじゃ!
 今朝、顔を洗った時に見た、手おけの水にうつったおれの顔にそっくりじゃ。
 それにしても、よく似た顔もあるものじゃなあ」
 そう言いながら弥じゃどんは、ひょいと片手を自分の首にあててみました。
 「ありゃ、首がない?」
 今まで確かについていた首が、どこにもありません。
 「すると、あの首はおらの首か。
 まあ、よかった。
 早くに気がついたおかげで、遠くまで流されずにすんだ」
 弥じゃどんは急いで川の中から自分の首を拾い上げると、また元通りに首を肩の上にポンと乗せました。
 「やれやれ。よかった、よかった」
 弥じゃどんは、ホッとして舟をこぎ出しました。
 やがて向こう岸に着くと、弥じゃどんは鼻歌を歌いながら、隣村の方へと歩いて行きました。
 ところが歩いても歩いても、いっこうに隣村へは着きません。
 「おかしいな。方角を、間違えるはずはないし」
 弥じゃどんがブツブツ言いながら歩いているうちに、何やら見覚えのある家の前にやって来ました。
 立ち止まってよく見ると、それは自分の家でした。
 「これは、不思議な事だ。
 自分の家に、戻ってしまったぞ。
 これは、どうした事だ?」
 どうして元へ戻ってしまったのか、さっぱりわかりません。
 「はて?」
 弥じゃどんは手を顔に当てると、ハッとしました。
 「こりゃ、いかん。首が、後ろ前についとる」
 さっき首を拾ってつけた時、あんまりあわてていたので、首を後ろ向きに乗せてしまったのでした。
 「なるほど。これでは先に行くつもりが、元に戻ってしまうわけだ」
 弥じゃどんは苦笑いをすると、急いで首の向きを戻して、今度はちゃんと隣村へ行ったそうです。
 おしまい   
 
 
 |  |  |