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福娘童話集 > きょうの日本昔話 > 3月の日本昔話 > 偽物の汽車 
      3月14日の日本の昔話 
          
          
         
  偽物の汽車 
      
       むかし、ある田舎の村に、汽車が通る事になりました。 
   ある晩の事、汽車を走らせている運転手の耳に、近づいてくる汽車の音が聞こえてきました。 
   シュッポ、シュッポ。 
  「おや? 前から汽車が? そんなはずは?」 
   運転手は、ふと前を見てびっくりです。 
   なんと前から、別の汽車が走ってくるのです。 
  「あっ、あぶない!」 
   運転手は慌てて急ブレーキをかけると、急いで汽車を飛び出しました。 
   すると不思議な事に、正面から近づいていた相手の汽車が影も形もないのです。 
  「そっ、そんな馬鹿な」 
   しかしこんな事が、それから何度もあったのです。 
   
   そして今晩も不思議な汽車が現れて、走っている汽車に近づいてきました。 
     何度も何度も同じ目に会っている運転手は、汽車のブレーキをかけるどころか、反対にスピードをどんどんあげました。 
  「よし、今夜はだまされないぞ! 幽霊か何だか知らないが、覚悟しろ!」 
   シュッポ、シュッポ。 
   シュッポ、シュッポ。 
   ドカーン! 
   二台の汽車は大きな音を立ててぶつかりましたが、そのとたん、不思議な汽車はパッと消えてしまいました。 
   
   さて、その晩遅くに、薬屋の戸を叩く者がありました。 
   「こんな時間に、誰だろう?」   
     店の主人が出てみると、外にいたのはお寺の小僧さんです。 
  「和尚(おしょう)さんがやけどしました。やけどの薬をわけてください」 
  「それはお気の毒に。それではこれをどうぞ」 
  「ありがとう」 
   小僧さんは薬を受け取ると、走って帰って行きました。 
   
   次の日、薬屋の主人は、和尚さんをおみまいに行きました。 
   すると和尚さんは、元気でピンピンしています。 
  「あの、和尚さま。やけどをされたのでは?」 
   薬屋の主人から昨日の話を聞いた和尚さんは、不思議な顔をしました。 
  「はて。わしはやけどをしておらんぞ。それにわしは一人暮らしで、寺には小僧は一人もおらん。おるのは、裏のやぶに住んでいるタヌキぐらいのものだ。・・・うん、もしや」 
   和尚さんは裏のやぶに行くと、タヌキの巣穴をのぞき込みました。 
   すると頭にやけどをしたタヌキが、やけどの薬をせっせと塗り込んでいたのです。 
  「こりゃタヌキ。これは一体、どういう訳だ?」 
   和尚さんが尋ねると、タヌキは訳を話しました。 
  「実は、わたしの家のすぐそばを汽車が通る様になってから、うるさくて昼寝も出来ません。それで汽車に化けて汽車をおどかしていたのですが、ゆうべは突っ込んで来た汽車に頭をぶつけて、ごらんのありさまです」 
  「そうか。うわさのお化け汽車は、お前だったのか。だが、いつまでもこんな事をしていては、そのうち命を落とすぞ。寺の静かなところにお前の小屋を作ってやるから、そこに引っ越すがいい」 
   こうして静かな小屋に引っ越したタヌキは、二度と汽車に化ける事はなかったそうです。 
      おしまい 
         
         
         
        
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