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 1月31日の日本の昔話  
 テングの腕比べ
 天狗个能力比賽
 
 ・日本語 ・日本語&中国語 ・日本語&客家語
 
 ・日本語 ・客家語 ・日本語&客家語
 
 客家語 : 鄧文政(ten33 vun55 zhin11)
  むかしむかし、中国にチラエイジュというテングがいました。頭擺頭擺,中國有一條安到chiraeju个天狗。
 
 このテングがはるばる海の上を飛んで来て、日本にやって来ました。
 這條天狗在天西恁遠个中國飛過大海,來到日本。
 
 そして、日本のテングに言いました。
 然後,摎日本个天狗講:
 
 「わが中国の国には偉い坊さんがたくさんいるが、われわれの自由にならぬ者は一人もいない。
 「在𠊎中國盡多高僧,毋過,毋自由个人無半儕。
 
 日本にも修行をつんだ偉い坊さんがいると聞いたので、わざわざやって来たのだ。
 聽講日本也有修行得道个高僧,𠊎特別過來。
 
 一つその坊さんたちにあって腕比べをしたいと思うが、どうであろう」
 想尋一個敢同𠊎比能力个人,仰般?」
 
 中国のテングは、偉そうな態度で言いました。
 中國个天狗像人盡偉大樣在該講。
 
 日本のテングはその態度に腹を立てましたが、しかしそんなそぶりは見せず、丁寧な口調で言いました。
 日本天狗看著該種態度盡火著,但係無表現出來,顛倒盡有禮貌講:
 
 「それは、それは。遠いところを、わざわざごくろうさまです」
 「恁遠䟓䟓來這辛苦咧。
 
 実は日本には、名僧、高僧と呼ばれる偉い坊さんがたくさんいて、テングたちよりも強いのです。
 實際上日本有當多做得講係名僧、高僧个和尚,能力比該兜天狗較強。
 
 そこでこの傲慢(ごうまん)な中国テングに、ギャフンと言わせてやろうと思ったのです。
 所以正會想愛對這大條擘擘个中國天狗,堵講:
 
 「いや、この国の偉い坊さんといっても、あまり大した事はありません。
 「毋係,這個國家分人稱讚大个和尚,乜無麽个了不起。
 
 我々でも、こらしめてやろうと思えばいつでも出来ます。
 𠊎兜想愛教訓佢乜做得。
 
 しかし、せっかく遠い国から来られたのですから、適当な坊さんを、二、三人お教えしましょう。
 どうぞ、わたしと一緒においで下さい」
 毋過,䟓工在恁遠个國家來,尋二、三个適當个和尚來教訓也好。
 請!摎𠊎共下來去。」
 
 そう言って日本のテングは、中国のテングを連れて比叡山(ひえいざん)にやって来ました。
 講煞,日本天狗就渡等中國天狗去到比叡山。
 
 そこは、京都から比叡山の延暦寺(えんりゃくじ)にのぼる道です。
 該係京都透比叡山延曆寺个山路。
 
 「わたしたちは人に顔を知られているから、あの谷のやぶの中に隠れておりましょう。
 「𠊎兜摎佢盡熟識,最好愛在樹林草竇肚囥等,
 
 あなたは年寄りの法師に化けて、ここを通る人をこらしめて下され」
 你變做老法師來教訓過路人。」
 
 そう言うと日本のテングは、さっさとやぶに隠れてしまいました。
 日本天狗講忒煞煞走去囥。
 
 そして、中国のテングの様子をうかがっていました。
 並偷看中國天狗。
 
 中国のテングは、見事な老法師(ろうほうし)に化けました。
 過後,中國天狗變做盡派頭个老法師。
 
 しばらくすると山の上から、余慶律師(よぎようりつし)という坊さんが手ごしに乗り、たくさんの弟子たちを従えて京都の方に下りて来ました。
 過無幾久,在山頂下來一個安著余慶律師个和尚坐轎順等山路行來,一大群弟子跈等愛去京都。
 
 余慶律師の一行は、次第に近づいて来ました。(さて、いよいよだぞ)
 余慶律師等一大群人慢慢行兼來了。
 
 しかし、ふと中国のテングの方を見ると、もう姿が見えません。
 無想到,向中國天狗該方向看去,嗄毋見忒,
 
 余慶(よぎよう)の方は何事もない様に、静かに山を下って行きました。
 余慶律師該兜人像形麽个事又無樣,恬恬行等過。
 
 (おかしいな、どこへ行ったんだ?)
 (還奇怪呢!行去那?)
 
 そう思いながら中国のテングの探すと、何と南の谷にお尻だけ上に突出して、ブルブルと震えているではありませんか。
 緊恁樣想緊尋中國天狗時節,看到南片山窩仰會有一個翹出來个屎胐,還吃吃惇。
 
 日本のテングは、そこへ近寄ると、
 日本天狗行兼去,
 
 「どうしてこんな所に、隠れておられるのか?」と、尋ねました。
 問佢講:「仰會园在這位?」
 
 すると中国のテングは、わなわなと震える声で、
 中國天狗用該緊惇个聲音、
 
 「さっき通ったお方は、どなたじゃ?」と、尋ねました。
 問講:「頭下經過个人係麽儕?」
 
 「余慶律師という、お方でござる。それより、なぜこらめしては下さらんのじゃ?」
 「係余慶律師。你仰會無教訓佢兜呢?」
 
 日本のテングが言うと、中国のテングは頭をかきながら、
 日本天狗問過後,中國天狗緊搔頭那講:
 
 「いやそれ、その事でござる。
 「毋係恁樣、該隻事情,
 
 一目見て、これがこらしめるという相手だとすぐにわかった。
 看阿著黏時斯知這個做得教訓麽?
 
 そこで立ち向かおうとしたのだが、何と相手の姿は見えず、手ごしの上は一面の火の海。
 因為企个方向關係,仰般形又看毋到對手个樣仔,轎个頂背一片火海,
 
 これはとうていかなわぬと思って、隠れたというわけでござる」
 𠊎想一定毋會贏佢正會囥起來。」
 
 それを聞いた日本のテングは、心の中でニヤリと笑いました。
 日本天狗聽著心肝肚偷笑。
 
 (やはり中国のテングと言っても、大した事はない。もう少しからかってやれ)
 (總講中國天狗無麼个了不起,再過撩佢。)
 
 しかし、真面目くさった顔をして言いました。
 神投投仔講:
 
 「はるばると中国の国からやって来られて、これしきの者さえ、こらしめる事が出来ないとは。今度こそは、必ずこらしめてくだされ」
 「在恁遠个中國䟓䟓來到這位,連這種人斯無才調教訓,這擺定著愛教訓佢。」
 
 「いや、いかにも、もっともでござる。よし、見ておられい。今度こそは必ずこらしめてごらんにいれよう。ふん! ふん!!」
 「係哦、你講著有道理,好!看等,這擺定著教訓分你看,哼!哼!!」
 
 中国のテングは気合を入れると、また老法師に化けました。
 中國天狗鼓起勇氣,又變做老法師。
 
 しばらくすると、また手ごしに乗った坊さんが山を下りて来ました。
 過無幾久在山頂下來一個和尚。
 
 それは、深禅権僧正(しんぜんごんそうじょう)という坊さんで、手ごしの少し前には、先払いの若い男が太い杖をついて歩いています。
 佢係深禪權僧正和尚,轎頭前有一個開路後生細倈仔、擎等棍仔行在頭前。
 
 日本のテングは、やぶの中からじっと見ていました。
 日本天狗囥在草竇肚,偷偷看。
 
 中国のテングは手ごしの近づいてくると、通せんぼうする様に立っていましたが、先払いの若い男が怖い顔をして太い杖を振り上げると、思わず頭をかかえてそのまま一目散に谷に駆け下りました。
 中國天狗在轎行兼个時節,像扡婆抓雞子遊戲肚个雞嫲樣兩手伸長長愛攔路,等佢看著開路个後生細倈仔,得人驚个面又舞動大龍棍个時節,嗄揇等頭那落荒仔(lag5 fang11 er55)瀉到窩壢底去。
 
 「いかがなされた。また、逃げて来られたではないか」
 「仰般、還係走去囥係無?」
 
 日本のテングは、やぶの中から声をかけました。
 日本天狗在草竇肚講:
 
 すると中国のテングは、苦しそうに息をはずませながら、
 過後中國天狗像人盡艱苦樣,氣凹凹講:
 
 「無理な事を言われるな。手ごしの方どころか、あの先払いにさえ近寄る事が出来ぬわ」
 「毋好講个無字个,轎頂个人毋使講,連該个開路該個乜做毋得兼身。」
 
 「そんなに、恐ろしい相手でござるか」
 「恁得人驚个對手係麼?」
 
 「いかにも。わしの羽の早さは、はるか中国から日本まで飛ぶ事が出来るが、とてもあの男の足の早さにはかなわぬ。
 「無論仰般,𠊎个翼个速度做得從遠方个中國飛到日本來,毋過無辦法比後生細倈仔脚步較遽。
 
 もし捕まったら、あの太い鉄の杖で頭をぶちわられてしまうわ」
 若係分佢捉著,頭那殼會分佢該大鐵棍打爛忒。」
 
 「さようか。では、次こそ頑張って下され。せっかく日本まで来られたのに、手柄話一つなしに帰られたとあっては、めんぼくない事ではござらぬか」
 「有影無?下二擺較加油兜,總講來到日本咧,一息仔做得歕雞胲个話頭都無俟轉去盡無面子,係麽?」
 
 日本のテングはそう言うと、さっさとやぶの中に入ってしまいました。
 日本天狗講煞,遽遽囥轉草竇肚,
 
 中国のテングは仕方なく、次に来る坊さんを待つ事にしました。
 中國天狗無法度,高不將等下一個和尚來。
 
 しばらく待っていると、下の方からたくさんの人が山を上って来るのが見えました。
 等一下仔,看到一大堆人在山下行上山頂來。
 
 先頭には、赤いけさを着た坊さんがいて、その次には若い坊さんが、立派な箱をささげて続きます。
 頭前係一個著紅色袈裟个和尚,後背係後生和尚捧等盡派頭个箱仔跟等。
 
 その後ろから、こしに乗った人が山を上って来たのでした。
 後背坐轎个人乜來到山頂。
 
 そして、こしの左右には二十人ぐらいの童子たちが、こしを守る様にしてついています。
 轎个左右兩片,大約有二十個童子掌等。
 
 このこしに乗っている人こそ、比叡山延暦寺の慈恵大僧正(じえだいそうじょう)で、一番偉い坊さんだったのです。
 這位坐轎个人係比叡山延曆寺个慈惠大僧正,一等偉大个和尚。
 
 日本のテングは、やぶの中からそっとあたりを見回しました。
 日本天狗在草竇肚偷偷看一下附近。
 
 しかし中国のテングの老法師の姿は、どこにも見えません。
 毋過尋毋到中國天狗變个老法師。
 
 「また逃げたかな。それとも、どこかに隠れて、すきを狙っているのかな」
 「敢係又逃走咧?也係囥在那位尋機會?」
 
 すると童子たちの中の一人が、大声で話しているのが聞こえてきました。
 童子之中有一儕大嫲牯聲講:
 
 「こういう所には、とかく仏法(ぶっぽう)の妨げをする者がひそんでいるものだ。よく探してみようではないか」
 「這隻地方园有妨害佛法个東西,愛尋較詳細兜仔看看。」
 
 すると元気のいい童子たちは、手に手に棒きれを持って、道の両側に散らばって行きました。
 過後該兜精神當好个童子,手牽手拿等棍仔,分做二隊在路个二片行。
 
 見つけられては大変と、日本のテングはやぶの中深く潜って行き、そっと息をひそめていました。
 分佢兜尋到會無結煞,日本天狗再過弄較裡肚去,毋敢敨大氣。
 
 と、谷のすぐ向う側で、童子たちの怒鳴っている声が聞こえてきました。
 聽得著窩壢對面童子大聲噦。
 
 「そら、ここに怪しい者がいるぞ。ひっとらえろ!」
 「你看!這位有一个妖怪,遽遽促到來!」
 
 「何だ、誰がいたのだ?」
 「麼个、麽儕在該?」
 
 「おいぼれの法師が隠れていたぞ。あの目を見ろ、普通の人間には見えぬぞ」
 「有一個老翹翹个法師囥在這,你看厥个目珠,普通个目珠毋係恁樣。」
 
 (大変だ。中国のテングが、とうとう捕まったぞ)
 (無結煞,中國天狗還係分人捉著。)
 
 日本のテングも恐ろしさに、ただ頭を地にすりつけるようにして、じっとひれ伏していました。
 日本天狗又乜驚到會死,該頭那揬到地泥,目金金在該跪拜。
 
 やがて足音が、遠ざかって行きました。
 無幾久脚步聲緊行緊遠。
 
 日本のテングは、そっとやぶからはい出すと、あたりを見回しました。
 日本天狗在草竇行出來,向四圍緊看。
 
 すると十人ばかりの童子たちが、老法師姿の中国テングを取り巻いているのが見えました。
 看到有十个童子定定,包圍中國天狗變个老法師。
 
 「どこの法師だ、名前を言え。なんの用があって、こんな所に隠れていた!」
 「哪位來个法師,報出名來,有麽个目的,會囥在這位!」
 
 一人の童子が、大声で言いました。
 其中一個童子大嫲聲講:
 
 中国のテングは大きな体を小さくして、あえぎあえぎ答えました。
 中國天狗驚到身体跔細,氣扯氣急應講:
 
 「わたくしは、中国から渡って来た、テングでございます」
 「𠊎係中國來个天狗。」
 
 「なに、中国のテングか。何をしに来たんだ」
 「麼个啊,中國个天狗?來這做麽个?!」
 
 「はい、偉いお坊さんが、ここをお通りになると聞いて待っていました。
 「聽講有高僧會經過這,𠊎在這等佢。
 
 一番始めにこられたお坊さんは、火界(かかい)の呪文を唱えておられたので、こしの上は一面の火の海でございました。
 最先來到這個个和尚,緊行緊唸咒文,所以腰仔頂背一片火海。
 
 うっかり近寄ろうものなら、こちらが焼け死んでしまいますので、一目散に逃げました。
 一下無細義偎兼佢會分佢燒死。所以落屎荒瀉走去。
 
 次に来られたお坊さんは、不動明王(ふどうみょうおう)の呪文を唱えておられたうえに、セイタカ童子が鉄の杖を持って守っておられました。
 第二個來个和尚毋單淨唸不動明王个咒文,還有高大个童子擎等鉄棍仔在脣頭掌等。
 
 それでまた、大急ぎで逃げました。
 因為這,再過遽遽逃走。
 
 今度のお坊さまは、恐ろしい呪文はお唱えにならず、ただ、お経を心の中でよんでおられただけでした。
 這擺這個和尚無唸該得人驚个咒文,斯在心肝肚頌經定定。
 
 それで恐ろしいとも思わなかったのですが、こうして、捕まえられてしまいました」
 話到毋會得人驚,所以正會分人捉到。」
 
 中国のテングが、やっとこう答えると、童子たちは、
 中國天狗應了後,該兜童子講:
 
 「大して、重い罪人でもなさそうだ。許して逃がしてやろう」と、言って、
 「無麼个大罪原諒佢好了,放佢走。」
 
 みんなでひと足ずつ老法師の腰を踏みつけると、向こうへ行ってしまいました。
 大家用腳在老法師囊腰仔跺等過去。
 
 慈恵大僧正(じえだいそうじょう)の一行が山を上って行ってしまうと、日本のテングはそっとやぶの中からはい出して来ました。
 慈惠大僧正一群人,想去山頂个時節,日本天狗正在草竇肚爬出來。
 
 そして腰の辺りをさすっている、中国のテングのそばに行きました。
 挲下腰,行去中國天狗脣頭。
 
 「いかがなされた。今度は、うまく行きましたかな?」
 「仰般形,這擺做得順利行敢那?」
 
 日本のテングは、しらぬ顔で聞きました。
 日本天狗詐毋知問:
 
 すると中国のテングは、目に涙を浮かべながら答えました。
 中國天狗目汁瀾泔,應講:
 「そんな、ひどい事を行って下さるな。
 さながら、生き仏の様な徳の高い名僧たち相手に、勝てるはずもないではないか」
 「毋好講該無字个,摎像活佛樣个高僧做為對手,哪有贏个道理,敢毋係?」
 
 「ごもっともでござる。
 しかし、あなたは中国という大国のテングではござらぬか。
 「合理,毋過你毋係像中國恁大个國家个天狗咩。
 
 それゆえ、日本の様な小国の人など、たとえ高僧、名僧とはいっても、心のままにこらしめる事が出来ると思うたまでの事でござる。
 另外,像日本恁仰个細國,佢个人民講个高僧、名僧,你心肝肚想作得教訓佢兜。
 
 ・・・が、この様に腰まで折られるとは、まことにお気の毒な事でござるわ」
 ...為這種事枉費心機,傷到腰骨,實在衰過。」
 
 日本のテングもさすがに気の毒だと思い、中国のテングを北山にある温泉に連れて行きました。
 日本天狗也認為當衰過,渡等中國天狗去北山該位个温泉,
 
 そして折られた腰を温泉に入れて治してやってから、中国の国へ送り返してやったという事です。
 浸溫泉醫好斷忒个腰骨後送佢轉中國。
 おしまい煞咧
   
 
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