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8月6日の世界の昔話

親指姫

親指姫
アンデルセン童話 → アンデルセン童話の詳細
親指姫のぬりえ

 むかしむかし、一人暮らしの女の人が、かわいい子どもをさずかりたいと願っていました。
 けれどその願いは、いっこうにかないません。
 そこで女の人は、魔法使いのおばあさんのところへ行ってたずねました。
「一人暮らしはさみしく、かわいい子どもがほしいと思っています。どうすれば、子どもが出来るのでしょうか?」
 すると魔法使いのおばあさんは、こう言いました。
「子どもかい?
 そんなのは、たやすい事だよ」
「本当ですか?!」
「ああ、あれをごらん。
 あの小びんの中に、一粒の大麦があるだろう。
 それは畑にまく麦やニワトリに食べさせる麦とは全くの別物で、特別な大麦だよ。
 それを植木ばちに植えると、願いがかなうだろう」
「では、その大麦をわたしにください」
「いいよ。
 銀貨十二枚となら、交換してあげよう。
 その大麦には、それだけの価値があるのだから」
「わかりました。お支払いします」
 女の人がうなずくと、魔法使いのおばあさんは大麦を女の人の手の中ににぎらせました。
「さあ、持ってお行き」
「ありがとうございます」
 女の人はお礼を言って、魔法使いのおばあさんに銀貨を十二枚渡しました。

 女の人は急いで家に帰ると、さっそく植木ばちに大麦を植えました。
「いったい、どうなるのかしら?」
 女の人がじっと見ていると、おどろいた事に土がもぞもぞと動いて、さっそく大麦の芽が土の中からのびてきたのです。
 芽はどんどんのびて、青々とした葉っぱをつけました。
 しかしそれは思っていた大麦とは違い、まるでチューリップのようです。
 大麦はそれからもどんどん育っていって、あっという間に大きな赤いつぼみをつけました。
「さあ、どんな花が咲くのかしら?」
 女の人はドキドキしながら赤いつぼみを見ていましたが、しかし、つぼみが出来ると急に成長が止まってしまいました。
 赤いつぼみは、ずっと閉じられたままです。
 女の人はその後もじっと見つめていましたが、いくら待っても花が咲かないので、ふーっとため息をつきました。
「それにしても、きれいなお花ね」
 女の人は言って、思わず赤いつぼみにキスをしました。
 すると赤いつぼみがブルッとふるえて、宝石を散りばめたようにキラキラと光りました。
「まあ」
 女の人がもう一度キスをすると、赤いつぼみはさらに大きくふるえました。
 うれしくなった女の人が何度も何度もキスをすると、ついに赤いつぼみはパッ開いて、きれいなチューリップの花が咲いたのです。
 でもそれは、普通のチューリップです。
 とてもきれいなチューリップの花ですが、女の人の望みとは違います。
 女の人がチューリップを見て首をかしげていると、花の真ん中に小さな小さな子どもがいる事に気がつきました。
 つやつやとした緑色のおしべにかこまれて、とても小さくて可愛らしい女の子が座っていたのです。
「なんて、可愛いのかしら」
 女の子の大きさは、女の人の親指の半分ほどしかありません。
 あまりにも小さいので、女の人は女の子に『おやゆび姫』と名付けました。

 たとえ小さくても、女の人には念願の可愛い子どもが出来ました。
 女の人はおやゆび姫をとても可愛がり、おやゆび姫に小さなゆりかごを作ってやりました。
 それはきれいにみがかれたクルミのからに、スミレの花びらのシーツとバラの花びらのふとんがある、とてもきれいなゆりかごです。
 おやゆび姫は、お月さまが出ている間にはそこで寝て、お日さまが出ている間はテーブルの上で遊びました。
 テーブルの上には女の人が用意してくれた水の入ったお皿があって、おやゆび姫は大きなチューリップの花びらのボートを白鳥の毛で作った二本のオールでこいで遊びました。

 何もかもが小さくて可愛らしいおやゆび姫ですが、このおやゆび姫には他の大きな人間にも決して負けない特技があります。
 それは、歌です。
 おやゆび姫は、この世界の誰にも負けないくらい、上手に歌を歌えるのです。

 ある夜の事です。
 おやゆび姫がクルミのゆりかごでぐっすりねむっていると、割れた窓のすき間から、一匹の大きなヒキガエルが部屋の中に入ってきました。
 ヒキガエルはテーブルの上に飛び上がると、ぐっすりと眠っているおやゆび姫を見つけました。
「あら、かわいい子ね、ゲロ。これは息子のお嫁さんに、ちょうどいいね、ゲロ」
 ヒキガエルはおやゆび姫のクルミのゆりかごをひょいと持ち上げると、そのまま窓から庭に飛び下りて家からはなれていきました。

 ヒキガエルの家は、浅い小川の沼になっているところです。
 母親のヒキガエルが連れてきたおやゆび姫を見て、息子のヒキガエルは大喜びです。
「可愛い子だ、ゲロ。こんなおれにも、嫁さんが出来た、ゲロ。はやく、この子と結婚式をしたい、ゲロ」
 すると母親ガエルは、息子ガエルの口を手でふさいで言いました。
「しーっ、静かにおしね、ゲロ。
 そんなに大きな声を出すと、この子が起きてしまうね、ゲロ。
 もし起きたりしたら、この子は白鳥のわた毛みたいに軽いから、そのままフワフワと逃げてしまうんね、ゲロ」
「わかった、静かにする、ゲロ」
「良い子だね、ゲロ。
 それじゃあ、この子を小川のハスの葉っぱに乗せるね、ゲロ。
 小さいこの子には、逃げられないね、ゲロ。
 そうやって動けないようにしておいて、わたしたちは二人が結婚生活を送る部屋を作るね、ゲロ」
  母親ガエルは、おやゆび姫が眠っているクルミのゆりかごを小川に持って行くと、水面に浮かんでいるたくさんのハスの中から、一番遠いところにある一番大きなハスの葉っぱを選んで、その上に置きました。

 次の朝、目を覚めたおやゆび姫は、自分が小川に浮いた大きなハスの葉っぱの上にいる事を知ってびっくりです。
 おやゆび姫には、小川は海のように広いので、どうする事も出来ません。
「わたし、どうしたらいいの?」
 おやゆび姫は悲しくなって、わんわんと泣き出しました。

 一方、母親ガエルは新しい娘となるおやゆび姫の為に、ぬま地に新しい部屋を作っていました。
 新しい部屋は、黄色いスイレンの花できれいに飾り付けをしています。
 部屋が出来上がると、母親ガエルは息子ガエルを連れて、おやゆび姫のところへ泳いでいきました。
 母親ガエルは泣いているおやゆび姫におじぎをして、息子を紹介しました。
「これはわたしの息子で、あんたのお婿さんになるね、ゲロ。あんたと息子は、この小川のぬま地で幸せに暮らすね、ゲロ」
 紹介された息子は恥ずかしがって、
「ゲロ、ゲロ、ゲロ」
と、だけしか言いません。
「そうそう、そのうち生まれる孫の部屋もつくっておくね、ゲロ。そのゆりかごは、まごのベットにするね、ゲロ。孫の部屋が出来るまで、ここで待ってるね、ゲロ」
 母親ガエルはそう言っておやゆび姫のゆりかごを持ち上げて、息子ガエルと一緒にまた沼地へと行ってしまいました。
 あのヒキガエルの親子と一緒に暮らすなんて、考えただけでもぞっとします。
 おやゆび姫はまた、しくしくと泣きました。
 するとそこへ、ヒキガエルの話しを聞いていたメダカたちが、ヒキガエルのお嫁さんを見てやろうと水面から顔を出しました。
「へぇー、これがヒキガエルのお嫁さんか。可愛いじゃないか」
「こんなに可愛い子が、あのみにくいヒキガエルたちと暮らすなんて、あんまりだな」
「ねえ、この子を助けてあげない?」
「そうだね。そうしようか」
 メダカたちはハスのまわりに集まると、みんなでいっせいにハスのくきをガリガリとかじり始めました。
 やがてメダカにくきをかみ切られたハスの葉っぱは、スーッと水面を流れていきました。
 こうしておやゆび姫は、ヒキガエルの親子から逃げることが出来たのです。

ここまで、ここから

 ハスの葉っぱはどんどん流れて、おやゆび姫はいくつもの場所を通りすぎました。
 林の中にいた小鳥たちはおやゆび姫を見て、
「なんて可愛いおじょうさんだ」
と、さえずりました。
 おやゆび姫はどんどん流されていき、ついによその国へ行きました。
 そこへきれいなモンシロチョウが現れて、おやゆび姫のまわりをしきりに飛びました。
 しばらく飛び続けたモンシロチョウは、おやゆび姫のいるハスの葉っぱにとまりました。
 おやゆび姫とモンシロチョウは、いっしょに川を流れていきました。
 ここまで来れば、もうヒキガエルにつかまる心配はありません。
 安心したおやゆび姫は、次々と変わっていく景色を楽しみました。
「水面がお日さまにてらされて、金色に輝いている。・・きれい」
 そのうちにおやゆび姫は腰のリボンを取り外して、はしをモンシロチョウに巻き付けました。
もう一方のはしは、ハスの葉っぱに結びつけました。

親指姫


 モンシロチョウが羽ばたくと、ハスの葉っぱは今までと比べものにならないほど速く水面をスーッと走り出しました。
 やがて、大きなコガネムシが飛んできました。
 コガネムシはおやゆび姫を見つけるやいなや、前足でおやゆび姫の細い腰をぐっとつかみ、木の上まで連れていってしまいました。
 おやゆび姫はコガネムシにさらわれて、とてもこわかったですが、でもそれよりもあやまりたい気持ちでいっぱいでした。
 ハスの葉っぱに、モンシロチョウをくくりつけてしまったからです。
 自分でリボンを外せなければ、モンシロチョウは腹ぺこで死んでしまうにちがいありません。
コガネムシはそんな気持ちをおかまいなしに、おやゆび姫を木の中で一番大きな葉っぱの上に乗せました。
 コガネムシはおやゆび姫をじろじろと見て、
「かわいい、かわいい。コガネムシじゃないけど、かわいい」
と、言いました。
 でもしばらくすると、他のコガネムシがやって来て、おやゆび姫を見ながら口々に言います。
「なんだこの子、足が二本しかないぞ」
「それに、触角がないぞ」
「身体が細すぎるし、まるで人間みたい」
「それによく見ると、とってもぶさいくだぞ」
「そうだ、この子はブスだ」
 他のコガネムシにさんざんに言われてたので、おやゆび姫をさらってきたコガネムシも、だんだんそんな気になってきました。
 そしてコガネムシはおやゆび姫を木から下ろすと、ヒナギクの花の上にちょこんと乗せて言いました。
「お前みたいな、変でぶさいくなやつはいらないや。どこへでも勝手に行ってしまえ」
 それを聞いたおやゆび姫は、めそめそと泣いてしまいました。
 自分はそんなにもみにくいのかと思うと、涙が止まりませんでした。
 でも、それはコガネムシの感覚がおかしいだけで、おやゆび姫はこの世の中で一番愛らしい人間なのです。

 さて、おやゆび姫は広い森の中で、夏の間中、ずっと一人ぼっちでした。
 おやゆび姫は大きなスカンポの葉の下に、草のくきとクローバーの葉っぱでベッドを作ると雨つゆをしのぎました。
 おやゆび姫は食べ物のかわりに花のミツをすい、毎朝はっぱから落ちるしずくでのどをうるおしていました。
 こうして夏の間は何とか過ごせましたが、夏も秋も終わって冬がやって来ると大変です。
 甘くさえずっていた鳥たちもみんなどこかへ行ってしまい、木もかれ、花もしおれてしまいました。
 ベットのクローバーの葉っぱも、くるくると丸まってしまいました。
 おやゆび姫は寒くて寒くて、こごえ死にそうです。

 そんなおやゆび姫がつ住んでいた森のそばに、大きな麦畑が広がっていました。
 麦はとっくにかり取られて、何も残っていません。
 寒さにふるえながら食べ物を探していたおやゆび姫は、その麦畑の端っこに野ネズミの家の玄関を見つけました。
 おやゆび姫は野ネズミの家の玄関をたたくと、
「麦を一つぶだけでいいですから、くださいませんか」
と、頼みました。

親指姫

 すると中から野ネズミのおばあさんが出てきて、
「何とも可哀想な娘さんじゃ。さぁ、ぬくい部屋にお上がり。わたしと一緒にごはんを食べましょう」
と、おやゆび姫が突然来たにもかかわらず、やさしく言ってくれました。
「ありがとう。おばあさん」
 野ネズミのおばあさんはおやゆび姫に温かいご飯を食べさせると、おやゆび姫に言いました。
「よかったら、この冬が終わるまでここにいなさいな。わたしは一人暮らしだから、遠慮はいらないよ。
 お前はその間、この家をきれいにお掃除してくれるだけでいいんだよ。
 それとあと、わたしにお話を聞かせておくれ。
 わたしは、人の話を聞くのが大好きなんじゃ」
「はい。それではお世話になります」
 こうしておやゆび姫と野ネズミのおばあさんは、楽しい毎日を送っていったのです。

 ある日の事、野ネズミのおばあさんは、おやゆび姫にこう言いました。
「近いうちに、お客さまがいらっしゃるよ。
 その人はお金持ちでね、大きな部屋がいくつも持っていて、つやがあってきれいな黒いコートを着ているよ。
 お前さんにあの人みたいなおむこさんがいれば、きっと何不自由なく暮らせる事でしょうねぇ。
 あの人は目が見えないから、お前さんの知っているとびきりのお話を一つ二つしてやりなさい」
 そして現れたお客さまというのが、この麦畑で一番大きな巣を持っているモグラでした。
 黒いコートを着てやって着たモグラは、太陽はばかばかしいだの、花なんてかわいくないだの、一度も見た事がないからさんざんに文句を言います。
 太陽も花も大好きなおやゆび姫が、いくら太陽も花もすばらしいものだと言っても、ぜんぜん信じてくれません。
 これではお話をしても無駄だと思い、おやゆび姫はお話の代わりに歌を歌いました。
 春の歌、夏の歌、鳥の歌、虫たちの歌。
 それを聞いたモグラは、おやゆび姫の甘い歌声を聞いて、おやゆび姫の事をいっぺんに好きになりました。
 でもモグラは、その事をだまっていました。
 モグラは、とてもしんちょうな動物なのです。
 でも、毎日のようにおやゆび姫の歌を聴きたいと思ったモグラは、自分の家と野ネズミの家をつなぐ通路を作りました。
 そしてモグラが、おやゆび姫に言いました。
「おやゆび姫、時間のある時はこの通路を通って家に来て、わたしに歌を聴かせておくれ。
 ただ、通路に鳥の死がいが転がっているから、見ても怖がらないでくれたまえ。
 まあそのうちに、別の通路を作るつもりだが」

 おやゆび姫がモグラの作った通路を歩いていくと、通路には本当に鳥が転がっていました。
 その鳥は、ツバメです。
 暖かい南へ飛び立つタイミングを間違えて、冬の寒さに凍え死んでしまったのでしょう。
「かわいそうに」
 そのツバメの顔を見て、おやゆび姫はふと、そのツバメに見覚えがあることに気づきました。
 おやゆび姫はツバメの閉じられたまぶたにキスをすると、ツバメにこう言いました。
「もしかしてあなたは、夏の間、わたしに歌ってくれたツバメさんではありませんか?
わたしはあなたのおかげで、とても楽しい毎日を過ごせました。
 ありがとう、ツバメさん」
 おやゆび姫は自分の頭を、ツバメの胸の上にぴっとりと寄せました。
 その時、ツバメの身体の中から、何かの音が聞こえました。
「ドクン、ドクン」
 それは、ツバメの心臓の音だったのです。
 ツバメは、死んでなどいなかったのです。
 おやゆび姫は自分の部屋に戻ると、ふわふわの毛布を持ってきてツバメの上にかけました。
 それから自分がベッドカバーとして使っているペパーミントの葉を取って来て、ツバメの頭にかぶせました。

 よく朝、おやゆび姫がツバメのところへ行くと、ツバメはとても弱っていましたが、ゆっくりと目を開けて言いました。
「ありがとう、かわいいおじょうさん。おじょうさんのおかげで、体に力がみなぎってきました。もうすぐ、暖かい南の国へ飛び立つことが出来ます」
「まぁ、何を言っているの。まだこんなに体が弱っているのに。それに外は、今も寒いわ。吹雪よ。わたしがあなたをお世話しますから」
 それからおやゆび姫は花びらに水を入れて、ツバメのところへ持っていきました。
 ツバメは水を飲むと、こんな話を始めました。
「ぼくのつばさの片方が、トゲで傷ついているんだ。だからみんなのように、暖かい南の国へ旅立てなかったんだ。寒さに地面に落ちて、それから後は覚えていないんだ」

 おやゆび姫は毎日ツバメの世話をして、ツバメは少しずつ元気になっていきました。
 しかし、モグラも野ネズミもこの事知りません。
 なぜならモグラが、もっと近道で便利の良い通路を作ってくれたからです。
 あっという間に春がきて、すっかり元気になったツバメはおやゆび姫にお別れのあいさつをしました。
 おやゆび姫が通路の天井に穴を開けると、お日さまが二人の頭上にさんさんと照りました。
 ツバメにとってもおやゆび姫にとっても、久しぶりのお日さまです。
 ツバメは地上に出ると、おやゆび姫に言いました。
「ぼくといっしょに、行きませんか? あなたの大きさなら、ぼくの背中に乗れます。ぼくといっしょに、緑の森へ行きましょう」
「緑の森?」
「そうです。そこは一年中暖かで、色とりどりの草花があり、大勢のやさしい動物たちもいます」
 おやゆび姫は、思わず一緒に行きたいと言いかけましたが、でも、おやゆび姫は行ってしまっては、野ネズミが悲しむにちがいありません。
「ごめんなさい。野ネズミのおばあさんを一人には出来ないわ」
「・・・そうですか。わかりました。それではごきげんよう、そしてさようなら」
 ツバメは太陽の光の中へ、旅立っていきました。
 ツバメを見送るおやゆび姫の目には、涙が浮かんできました。

 ある夏の日、野ネズミのおばあさんがおやゆび姫に言いました。
「おやゆび姫、お前さん結婚するんじゃよ」
「えっ?」
 突然言われてびっくりするおやゆび姫に、野ネズミのおばあさんはうれしそうに言いました。
「なんとモグラさんが、お前さんをお嫁さんにしたいと言っているのよ。
 お前は本当に運の良い子ね。
 何もないお前さんが、一日で大金持ちになるんだから」
「わたし、結婚なんて・・・」
「さあ、これからいそがしくなるよ。なぜなら、お前さんのウェディングドレスを作らないといけないのだから」
「でも・・・」
「ほらほら、働き者のクモを四匹やとっているから、クモの糸を糸車に回して、糸をつむがないと」
 野ネズミのおばあさんはおやゆび姫に糸車を渡すと、ウェディングドレスを作るための糸を作らせました。
 モグラは毎晩おやゆび姫をたずねてきて、結婚式の話ばかりしました。
「今は夏は日ざしのせいで、地面が石みたいにカチコチになっているから無理だけど、夏が終わって地面がカチコチでなくなったら、お前の部屋を作ってあげよう。そして部屋が出来たら結婚式を挙げるんだ」
 しかし、おやゆび姫はちっとも嬉しくありません。
 なぜならモグラはお日さまが嫌いなので、結婚したら二度とお日さまを見させてはくれないからです。

 秋がやってきて、おやゆび姫のウェディングドレスが完成しました。
 地下深くにあるおやゆび姫の部屋も、もうすぐ完成するとモグラが言いました。
 そして野ネズミのおばあさんが、おやゆび姫に言いました。
「結婚式はあさってに決まったよ。よかったわね」
 おやゆび姫はそれを聞くと、しくしく泣き始めました。
 そして、野ネズミのおばあさんに言いました。
「わたし、モグラさんとは、気が合わないの。だから、結婚したくありません」
「何を、ばかな事を言っているの!
 あんなイイ男は、どこを探してもいないよ。
 女王さまだってあんなきれいでぴかぴかの服とか、毛皮は着ないんだから。
 台所も貯蔵室も食べ物でいっぱいだし、こんな運命のめぐり合わせはないんだから」

 さて、結婚式の当日、おやゆび姫は地上へ出ると、お日さまに最後の別れを言いに来ました。
 もうすぐモグラがおやゆび姫を地中深くに連れて行き、二度とお日さまを見せてはくれないからです。
「さようなら、明るいお日さま。さようなら、さようなら」
 おやゆび姫は、何度もくり返しました。
 そして近くに生えている小さな赤い花を抱きしめて言いました。
「もし、あのツバメさんに出会ったら、あなたからよろしく言ってね」
 すると突然、上の方から何かがやって来ました。
 おやゆび姫が空をあおぐと、なんとあのツバメが飛んでいるのです。
 ツバメはおやゆび姫を見つけると、すぐに地面におりたちました。
 ツバメは地上に出たあともこの場にとどまって、おやゆび姫が地上に出てくると信じて、ぎりぎりまで旅立つのをやめていたのです。
 ツバメは、おやゆび姫に言いました。
「寒い冬が、もうそこまでせまっています。
 ぼくはもう、南の国へと旅立たなければいけない。
 どうです、ぼくといっしょに行きますか?
 もしそうなら、背中に乗ってください。
 そして腰のリボンで、自分をしっかり結びつけてください。
 山を越えて、あたたかい南の国へ、お日さまがさんさんと輝く場所へ行きましょう」
「ええ、わたし、あなたといっしょに行きます」
 もう、迷いはありません。
 おやゆび姫はツバメの背中に座って、ツバメの体に腰のリボンをくくりつけました。
 ツバメは大空へと舞い上がりました。

親指姫とツバメ

 森を越え、海を越え、万年雪におおわれた山々を越え、飛んでいきました。
 もう冬がせまっていたので、空の空気は凍えそうなほど冷たかったですが、おやゆび姫はツ バメのあたたかい羽毛の中にもぐりこんで、頭だけ羽の中から出しました。
 そして通りすぎていく美しい国々におどろき、感動しました。
 こうしておやゆび姫を乗せたツバメは何日も何日も飛んで、やっと暖かい南の国にたどりつきました。
 そこではお日さまが明るくほがらかに輝いて、空はどこまでもすきとおって見えました。
 森にはブドウやレモンやオレンジなどの果物がたわわに実り、ミルテやペパーミントのかぐわしい香りもただよってきます。
 ツバメは森を越えて、青い湖のところへやってきました。
 ほとりには青々とした木々が立っていて、湖にかげを落としていました。
 そこに、宮殿がありました。
 目がくらむほど真っ白な大理石で出来ていて、ふさのついたブドウのツルが宮殿の長い柱にからみついていました。
 その頂上には、たくさんのツバメの巣がありました。
 その中に、おやゆび姫を連れてきたツバメの家があるのです。
 ツバメが、一つの家を指さして言いました。
「これが、ぼくの家だよ。でも、君に住んでもらうために作ったものじゃないから、あんまりくつろげないかな。あそこにすてきな花がいっぱいあるでしょう。あの中から一つ選んでくれませんか。その上に下ろしてあげるよ。ぼくは君が幸せになるためなら、どんなことだっておしまないよ」
「とっても、うれしいわ」
 おやゆび姫はうれしくて、思わず手を合わせました。
 地面に、大理石の柱が三つに折れて倒れていました。
 もともとは一本だったのですが、くずれて倒れるときにポッキリと折れてしまったのです。
 その三本の柱の間に、何よりも美しい大きな白い花がいくつも咲いていました。
 ツバメはおやゆび姫と下におりていって、大きな花の上に乗せました。
 おやゆび姫は、とてもびっくりしました。
 花の真ん中に、小さな人がいたからです。
 その人は、水晶みたいに白くすきとおっていました。
 頭の上に金のかんむりをかぶって、背中にゆうがなつばさがついていました。
 そして、おやゆび姫と同じくらいの背の高さでした。
 実は、その人は花の妖精だったのです。
 どんな花にも、そういう男の人と女の人が二人住んでいるのです。
 その中の王さまが、この人なのです。
「まぁ、なんとお美しい方!」
 おやゆび姫は、ツバメに小声でささやきました。
 その小さな王子さまははじめ、巨人のように大きい鳥を見て、ひどくおびえていました。
 でも、王子さまはおやゆび姫を見ると、とてもよろこびました。

親指姫


 こんなにきれいな女の子は今まで見たことがない、と思いました。
 王子さまは金のかんむりを外して、おやゆび姫の頭にかぶせました。
 そして王子さまは名前を聞いたあと、こう言いました。
「どうか、わたしのお嫁さんになってくれませんか? すべての花の、おきさきさまとなってくれませんか?」
おやゆび姫は、
「はい」
と、かっこいい王子さまに言いました。
 すると、すべての花が咲いて、妖精たちが小さなおきさきと王さまのところへやって来ました。
 みんなきれいで、二人を見てにこやかに笑いました。
 みんなおやゆび姫におくりものを持ってきていました。
 その中で一番のおくりものは、一組の美しいつばさでした。
 妖精たちはそのつばさを、おやゆび姫の背中にぴったりとくっつけてくれました。
 これでおやゆび姫は、花から花へと飛びうつれるようになったのです。
 そのあと、お祝いがありました。
 あのツバメがお祝いの歌を頼まれて、もちろん引き受けました。
 ツバメは二人の頭の上の巣の中で、じっと動かずにウェディングソングを歌いました。
 自分のできるせいいっぱいの花むけだと思って歌いました。
 ツバメはとても悲しいけれど、それをかくして歌いました。
 心の中ではおやゆび姫を愛していたのです。
 おやゆび姫と別れたくないのです。
「これからはおやゆび姫なんて名前で呼んではいけないわ」
と、花の妖精が言いました。
「あなたの事は、花の妖精のマイアと呼びましょう」
 ツバメは、「さようなら、さようなら。」と言いました。
 あたたかい南の国からデンマークへ戻るため、ツバメはその場をさらなければならないのです。
 あたたかい国を飛び立ち、北へ北へと飛んでいくにつれて、とてもさみしくなっていきました。
 ツバメはデンマークにも巣を持っていました。
 ある家のまどの上に巣はありました。
 その家には、童話を書くおじさんが住んでいました。
 ツバメは巣の中で「キーヴィ、キーヴィ。」と、歌いました。
 それはおやゆび姫が生まれて、幸せになるまでのお話の歌でした。

おしまい

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