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 7月9日の日本民話 2
 
  撮影 下山 孝 禁転載   写真掲載元 猪名川流域の鳥 ヒヨドリ
 
 お腹の中のヒヨドリ
 山梨県の民話 → 山梨県の情報
  むかしむかし、ひどい貧乏ですが、心の優しいおじいさんとおばあさんが住んでいました。
 ある寒い雪の朝、おじいさんが家の外へ出てみると、目の前の木の切りかぶにヒヨドリが一羽止まっていました。
 「どうした? 寒くて動けないのか?」
 おじいさんが近づいても、ヒヨドリは逃げようとはしません。
 おじいさんがヒヨドリを両手で包むと、ヒヨドリは寒そうにブルブルと震えていました。
 「よしよし、暖めてやるぞ。はあー」
 おじいさんがヒヨドリに温かい息を吹きかけてやると、ヒヨドリの震えが少しおさまりました。
 「よーし。もっと息をかけてやるぞ。はあー、はあー」
 ヒヨドリの震えが止まり、ヒヨドリは少しだけ翼を動かしました。
 「よーし、よし。もう少しで飛べるようになるぞ。はあー、はあー、はあー」
 おじいさんが大きく口を開けて息を吹きかけていると、暖まったヒヨドリが翼を動かして飛び出しました。
 そしておじいさんの口の中へ飛び込み、そのままお腹の中に入っていったのです。
 「大変だ! ヒヨドリを飲み込んでしまったぞ」
 おじいさんがヒヨドリをはき出そうとお腹をさすると、おへそからヒヨドリの尻尾がピョンと飛び出したのです。
 おじいさんはあわてて尻尾を引っ張ると、お腹の中のヒヨドリが、
 ♪ピンピンピヨドリ、ゴヨウノオタカラ、ピーピヨサー。
 と、綺麗な鳴きました。
 おじいさんが何度引っぱっても、
 ♪ピンピンピヨドリ、ゴヨウノオタカラ、ピーピヨサー。
 と、綺麗な声で鳴きます。
 
 「おばあさん、おばあさん、これを聞いてくれ」
 嬉しくなったおじいさんは、おへそから出ている尻尾を引っ張ってヒヨドリの鳴き声をおばあさんに聞かせました。
 ♪ピンピンピヨドリ、ゴヨウノオタカラ、ピーピヨサー。
 「まあ、なんて素敵な鳴き声でしょう。聞いているだけで、幸せな気持ちになりますね。おじいさん、村のみんなにも聞かせてあげましょう」
 「そうだな。そうしよう」
 そこでおじいさんは村のみんなを集めると、おへそから出ている尻尾を引っ張ってみんなにヒヨドリの歌を聞かせました。
 ♪ピンピンピヨドリ、ゴヨウノオタカラ、ピーピヨサー。
 「なんていい鳴き声だ」
 「聞いているだけで元気が出てくる」
 おじいさんはすっかり村の人気者になり、村人たちはヒヨドリの歌を聞かせてもらったお礼に食べ物やお金をおじいさんにあげました。
 おかげで貧乏だったおじいさんの暮らしは、人並みになりました。
 でもヒヨドリの尻尾の羽根はおじいさんが引っ張ると少しずつ抜けてしまうので、おじいさんはヒヨドリに歌を歌わすのを止めてしまいました。
 
 ある日の事、おじいさんのうわさが、殿さまの耳にまで届きました。
 城に呼ばれたおじいさんに、殿さまが言います。
 「お前は、ヒヨドリの歌声でみんなを幸せな気分にするそうな」
 「は、はい。ですがもう、ヒヨドリに歌を歌わせる事は・・・」
 ヒヨドリの尻尾の羽根は、今では最後の1枚だけです。
 おじいさんがどうしようかと迷っていると、殿さまが言いました。
 「何をしている。もし出来ないのなら、お前に罰を与えるぞ」
 おじいさんは仕方なく、最後の1枚となった尻尾の羽根を引っ張りました。
 するとおじいさんのお腹から、いつもよりずっと良い声でヒヨドリが歌を歌ったのです。
 ♪ピンピンピヨドリ、ゴヨウノオタカラ、ピーピヨサー。
 ♪ピンピンピヨドリ、ゴヨウノオタカラ、ピーピヨサー。
 「なるほど、これは見事じゃ。確かに幸せな気持ちになれる」
 殿さまが手を叩くと、家来たちもいっせいに手を叩きました。
 
 こうして殿さまからたくさんのほうびをもらったおじいさんですが、おへそを見ると最後の羽根も取れてしまい、おじいさんがいくらお腹をさすったりおへそを引っ張ったりしても、ヒヨドリの歌声は聞こえてきませんでした。
 「はあーっ、ヒヨドリには可愛そうな事をしてしまった。ヒヨドリは、わしの腹の中で死んでしまったのだろうか。はあーーーっ」
 おじいさんが悲しそうに、大きなため息をついたその時です。
 おじいさんのお腹がムズムズと動くと、ため息をついて開いたおじいさんの口からヒヨドリが飛び出したのです。
 実はおじいさんのおへそに引っかかっていた尻尾の羽根が取れて、ヒヨドリはやっとおじいさんのお腹から出る事が出来たのです。
 ヒヨドリはおじいさんの手に止まると、嬉しそうに歌を歌いました。
 ♪ピンピンピヨドリ、ゴヨウノオタカラ、ピーピヨサー。
 よく見ると、尻尾には新しい羽根が生えています。
 ♪ピンピンピヨドリ、ゴヨウノオタカラ、ピーピヨサー。
 
 その後、おじいさんとおばあさんはヒヨドリを実の子どもの様に可愛がり、殿さまからもらったほうびで幸せに暮しました。
 おしまい   
 
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