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 12月9日の日本民話 2
 
   
 サバ大師
 徳島県に伝わる弘法大師話 → 徳島県の情報
  徳島県南部の八坂山鯖瀬大師堂(やさかざんさばせだいしどう)という寺には、右手にサバを持った弘法大師の石像があるそうです。これは、それにまつわるお話です。
 
 むかしむかし、旅の途中の弘法大師が歩いていると、向こうから馬のたずなを引いた男がやって来ました。
 馬の背中のかごには、たくさんのサバが乗せてあります。
 それを見た大師は、馬方に頼みました。
 「馬方さん。すまないが、わしにサバを一匹だけでも分けてくださらんか」
 そう言われた馬方は、大師をジロリとにらんで言いました。
 「なに! ただでサバをくれと言うのか!? なんと図々しい生臭坊主じゃ! このサバが食いたいのなら、金を出せ。そうすりゃあ、いくらでも売ってやろう」
 「いやいや、わしは仏に仕える身。サバを食べるつもりはない」
 「なら、どうしてサバが欲しいんじゃ」
 「それは、ただ一匹のサバでもよいから海へ戻してやる心によって、亡き人々の菩提(ぼだい→死後の冥福)をお願いしたいと思ったからじゃ」
 「ふん! うまい事をぬかす坊主じゃ。だがどっちにしろ、金を出さんのならサバは一匹たりともやらん!」
 馬方は舌うちをして、通り過ぎようとしました。
 するとその後姿を見ながら、大師がこんな歌をよみました。
 
 ♪おおさかや(大阪や)
 ♪やさかさかなか(八坂坂中)
 ♪さばひとつ(サバ一つ)
 ♪たいしにくれで(大師にくれて)
 ♪うまのはらやむ(馬の腹病む)
 
 すると不思議な事に、馬方の馬が腹痛を起こして動けなくなったのです。
 馬方は立ち去る大師の姿を振り返り、じっと考えました。
 「さては、あの坊さん。とても偉いお坊さんでは。・・・お大師さま? そうじゃ、確かにお大師さまじゃ!」
 馬方は大師の前まで駆け戻ると、サバを差し出して言いました。
 「お坊さまは、お大師さまでございましょう。先ほどは、わしが悪うございました。どうか許して下さい。馬が動けんでは、わしは明日から食べていけません」
 すると大師はニッコリ笑って、また歌をよみました。
 
 ♪おおさかや(大阪や)
 ♪やさかさかなか(八坂坂中)
 ♪さばひとつ(サバ一つ)
 ♪たいしにくれて(大師にくれて)
 ♪うまのはらやむ(馬の腹止め)
 
 大師の歌を聞いた馬方は、先ほどの歌と今の歌が同じに聞こえたので、あわてて言いました。
 「お大師さま、どうか許して下さい! サバは全部差し上げますので! さっきと同じ歌では、馬が死んでしまいます!」
 すると大師は、首を振りました。
 「いやいや、決して同じ歌ではないぞ。その証拠に、馬を見てみなさい」
 馬方が馬を見ると、さっきまで苦しんでいた馬が立ちあがり、元気にいなないたのです。
 「お大師さま、ありがとうございます! 約束通り、サバは全部差し上げます」
 「いや、それでは馬方さんも生活が困るだろう。サバは一匹でよい」
 「はい、重ねてありがとうございます」
 大師に一匹のサバを差し出した馬方は、大師に何度も頭を下げながら馬のたずなを引いて立ち去りました。
 そして大師が馬方にもらったサバを海に投げ込むと、死んでいたサバが生きかえって海を泳いで行ったのです。
 
 こんな事があって、鯖瀬の大師堂の像はサバを持っているのです。
 おしまい   
 
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