福娘童話集 > きょうの百物語 福娘童話集 きょうの百物語 童話・昔話・おとぎ話の福娘童話集
 


福娘童話集 > きょうの百物語 > 12月の百物語 >幽霊絵馬

12月9日の百物語

幽霊の絵馬

幽霊絵馬
京都府の民話京都府情報

日本語 ・日本語&中国語

※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先

投稿者 「つれづれ居士」  つれづれ居士

♪音声配信(html5)
朗読者 ; ☆横島小次郎☆

 むかしむかし、京都の革堂(こうどう)とよばれるお寺の近くに、質屋の八左衛門(はちざえもん)という男がいました。
 この八左衛門はお金持ちでしたが、強欲な為にみんなから嫌われていたので、子どもが生まれても子守りのなりてがありませんでした。
 そこでやっと、遠く近江(おうみ→滋賀県)の農家から、フミという十三歳の女の子をやとったのです。
 フミの母親は、自分の手鏡(てかがみ)をフミに渡して言いました。
「フミや。これを母だと思って、さびしくてもこらえておくれよ。風邪には、気をつけるんだよ」
「うん、フミがんばる。お母ちゃんも、元気でね」

 八左衛門の家に着いたフミは、その日から子どもの世話をしました。
 子どもがむずかると、おんぶをして家の周りをあやして歩き、おしめがぬれるとすぐに取り替えてやりました。

 さて、すぐ近くのお寺の革堂は西国三十三ヶ所のお寺の一つなので、巡礼(じゅんれい)の人でいつもお祭りの様ににぎわっていました。
  白い着物姿の巡礼たちは、革堂の観音さまの前で鈴をならしてご詠歌(えいか→巡礼または仏教信者などが歌う、和歌・和讃にふしをつけたもの)をとなえます。
♪はなーをーみて (花を見て)
♪いーまーはー (今は)
♪のぞみーもー (望みも)
♪こおーどーうのー (革堂の)
♪にわーのーちぐさーもー (庭の千草も)
♪さかりーなーるーらん (盛りなるらむ)
 ご詠歌は仏さまをたたえる歌で、それを聞いたフミは、ご詠歌がいっぺんに好きになりました。
 そこでフミは、毎日子どもをおぶって革堂へかよいました。
 そのうちにフミは背中の子をあやしながら、ご詠歌を口ずさむ様になりました。
 ところがこれを知った八左衛門が、かんかんになって怒りました。
「うちの寺は、宗派が違うんやで!
 それに、そんないん気くさい歌は大嫌いや!
 革堂なんかに行くから、そんな歌を覚えるんや。
 今度革堂へ行ったり、ご詠歌を歌ったりしたら、承知せえへんで!」
「・・・はい」
 フミは言いつけを守って、革堂へ行くのをがまんしました。
 つらい事があると母親の手鏡を見ましたが、でも、鏡は何も言ってくれません。
「ああ、ご詠歌を聞きたい。ご詠歌は、近江のお母ちゃんの声を聞いてる様だもの」
 やがてフミはがまん出来ずに、革堂へ行ってしまったのです。
 お参りの人のご詠歌に小声であわせていると、フミは悲しい事を忘れる事が出来ました。
 でも、八左衛門には内緒でした。

 ある寒い冬の事、フミが家の中で子守りをしていたら、背中の子どもが、たどたどしい口ぶりで、ご詠歌を歌い出したのです。
 いつもフミと一緒にご詠歌を聞いていたので、覚えてしまったのです。
 それを聞きつけた八左衛門は真っ赤になって飛んで来ると、フミを裸にして庭に引きずり出しました。
「ごめんなさい。ごめんなさい!」
 フミが泣いて謝っても、八左衛門は許しません。
 八左衛門は裸のフミに、頭から氷の様に冷たい水を浴びせました。
 そしてフミを納屋(なや→物置)に放り込むと外から鍵をかけて、そのまま寝てしまったのです。

 次の日の朝、ふと目を覚ました八左衛門は、フミの事を思い出しました。
 そしてあわてて納屋を開けると、裸のフミはもう、凍え死んでいたのです。
「どないしょう。世間に知れたら、大変や」
 そこで夫婦は納屋に穴を掘ると、フミの死体を埋めて隠しました。
 そしてフミの両親には、
《フミは好きな男が出来て、家出をした》
と、うその知らせをしたのです。

 知らせを受けたフミの両親が、近江から飛んできました。
 でも八左衛門は、逆に文句を言い出す始末です。
「こっちは子守りがいなくなって、困っている。どうしてくれる!」
「申し訳ありません。申し訳ありません。必ずフミを探し出して、子守りを続けさせますから」
 フミの両親は八左衛門に謝ると、京の町を探し回りました。
 そして道行く人から、
「そう言えば、よく革堂というお寺で、子守りをしてはりましたなあ」
と、聞いたので、両親は革堂の観音さまの前で、ご詠歌をとなえておがみました。
「観音さま、どうかフミの居所を教えてください」
 両親はそのままお堂に泊まり込み、おこもり(→神仏に祈願する為、神社や寺にこもる事)をしました。
 すると真夜中、両親は、誰かがいる様な気がして目を覚ましました。
 暗闇に目をこらすと、お堂のすみにフミのかげが立っているのです。
(フミ!)
 呼びかけ様としましたが、二人とも声になりません。
 近寄ろうにも、体がしびれて動けません。
 するとフミが、口を開きました。
「お父ちゃん、お母ちゃん。
 わたしはもう、この世にはいないの。
 わたしは主人に殺されて、納屋の冷たい土の中に埋められたの。
 ここは、寒い。
 ここは、暗い。
 どうか掘り出して、供養をしてください」
 そう言うとフミの幽霊は、すーっと消えました。
 そしてフミの幽霊がいた場所には、母親が持たせたあの手鏡が置かれていました。

 フミの両親は奉行所にうったえて、フミの死体を探し出すと、ねんごろにとむらいました。
 そしてこの悲しい出来事を忘れない様にと、フミの幽霊姿をそのままの大きさで杉板(すぎいた)にうつしとり、形見の鏡をはめ込んだ大きな絵馬にして革堂におさめました。
 もちろん、幽霊に罪をあばかれた八左衛門は、奉行所に引き出されて罰を受けました。
 フミのとむらいが終わった両親は巡礼になって、ご詠歌を歌いながら西国の寺を巡りました。

 このあわれなフミの幽霊絵馬は今も革堂にまつられており、毎年お盆の八月十五日、十六日に公開されています。

おしまい

前のページへ戻る

     12月 9日の豆知識

366日への旅
きょうの記念日
漱石忌
きょうの誕生花
月桂樹(げっけいじゅ)
きょうの誕生日・出来事
1978年 ISSA (歌手)
恋の誕生日占い
ヒロインにあこがれる女の子
なぞなぞ小学校
火の中にいる生き物は?
あこがれの職業紹介
水産技術者
恋の魔法とおまじない 344
魅力度アップのおまじない
  12月 9日の童話・昔話

福娘童話集
きょうの日本昔話
タヌキの手習い
きょうの世界昔話
アルキメデスの新兵器
きょうの日本民話
たばこのおかげ
きょうのイソップ童話
メスのライオンとキツネ
きょうの江戸小話
親父を焼いたせがれ
きょうの百物語
幽霊絵馬

福娘のサイト

http://hukumusume.com

366日への旅
毎日の記念日などを紹介
福娘童話集
日本最大の童話・昔話集
さくら SAKURA
女の子向け職業紹介など
なぞなぞ小学校
小学生向けなぞなぞ