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7月29日の日本の昔話

聞き違い
島根県の民話→ 島根県情報
にほんご(日语) ・ちゅうごくご(中文) ・日语&中文
むかしむかし、お医者さんの家で働いている男がいました。
いつも言われた事を忘れたり、聞き違えたりするので、みんなからは『おろか者』と呼ばれていました。
ある日、魚屋が魚を売りにきました。
おろか者は、お医者さんのところへ行って、
「魚屋が、魚を売りにきた」
と、言いました。
「よしよし、それなら一匹買って、料理しておくれ」
そこでおろか者は魚を一匹買いましたが、でもどうやって料理したらいいのかわかりません。
おろか者は、またお医者さんのところへ行きました。
「魚の料理は、どうする?」
「煮ても焼いてもいいから、お前の好きなように料理してくれ」
そこでおろか者が包丁で魚を切ろうとすると犬が一匹やってきて、ワンワンとほえました。
「しっ、あっちへ行け」
追い払っても、犬はほえるばかりです。
おろか者はすっかり困ってしまい、お医者さんのところへ行きました。
「犬が来てワンワン鳴くけど、どうしたらいい?」
「何だ、またあの犬か。かまわないから、頭でも一発食らわせてやれ」
お医者さんは犬の頭を殴れと言ったのですが、おろか者は聞き違いをして、
(そうか、頭を食らわせればいいんだな)
と、魚の頭を切って、犬に投げました。
犬は大喜びで、魚の頭を食べました。
ところが食べ終わると、犬はまたワンワンほえました。
「この欲張りめ」
おろか者が犬を追い出そうとしても、犬ははなれようとはしません。
おろか者は、またお医者さんのところへ行きました。
「頭を食らわせたのに、まだワンワンほえている。どうしたらいい?」
「頭がだめなら、まん中のところを思いきり食らわせてやれ」
(いいのかな? まん中のところなんか食らわせて)
おろか者は不思議そうに首を振りながら戻ると、魚のまん中を切って犬に投げました。
犬は大喜びで、魚を食べました。
これで残っているのは、魚の尻尾だけです。
それでも犬は、尻尾が欲しくてワンワンほえました。
「お前は、なんて欲張りなんだ」
おろか者は、またまたお医者さんのところへ行きました。
「頭もまん中も食らわせたのに、まだワンワンほえている。どうしたらいい?」
お医者さんはとうとう腹を立て、大声で言いました。
「いいかげんにしろ! 頭もまん中も食らわせて逃げないなら、尻尾をつかんで思いっきり遠くへ投げとばせ」
(なるほど。遠くへ投げとばせばいいんだな)
おろか者は戻ってくると、残っている魚の尻尾をつかんで庭へ出て、思いっきり遠くへ投げつけました。
犬はそれを見てかけ出すと、落ちた魚の尻尾をくわえてそのまま逃げてしまいました。
「やれやれ、これでやっと静かになったぞ」
おろか者は、ほっとしました。
さて、しばらくすると、お医者さんがやってきて言いました。
「どうだ、魚の料理は出来たか?」
するとおろか者は、にこにこして答えました。
「はあ、だんなさまの言う通り、犬に頭を食らわせ、まん中を食らわせ、尻尾を遠くへ投げたら、犬はやっといなくなった」
それを聞いたお医者さんは、びっくりです。
「なに、犬に魚を食らわせただと! わしが食らわせろと言ったのは、殴れという事だ。そして尻尾をつかんで投げるのは、魚ではなく犬の方だ!」
「はあ、それならそうと、言って下さればいいのに」
「・・・・・・」
お医者さんはあきれて、それ以上は何も言えなくなってしまいました。
おしまい
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