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10月6日の世界の昔話

ナイチンゲール

ナイチンゲール
アンデルセン童話 → アンデルセン童話の詳細

 むかしむかし、中国の王さまのもとに、遠い国から一冊の本が送られてきました。
 そこには、
《中国の王さまのご殿は、世界一すばらしい。でも、本当に一番すばらしいのは、そのお庭のナイチンゲール(なきウグイス)の声》
と、書かれてありました。
「わしの庭に住んでいるらしいナイチンゲールとやらを、今夜じゅうにさがし出してまいれ」
 大臣と家来たちはご殿じゅうさがしましたが、どこにいるのかわかりません。
 こまっていると、台所で働く小さい娘が、
「その鳥なら、毎晩、病気のかあさんに食ベ物を届けにいくとき、森の中でいい声で歌ってくれるわ」
と、いいました。
 みんなは、娘を先頭にゾロゾロと森へ出かけました。
 森の奥から、鈴をふるような、きれいな歌声がひびいてきます。
「しっ! あれがナイチンゲールよ」
 娘は、枝に止まっている灰色の小鳥にいいました。
「王さまに、あなたの歌を聞かせてあげて」
 娘のたのみを聞いて、ナイチンゲールはその晩、王さまのご殿にやってきました。
 ナイチンゲールは、王さまの前で歌いました。
 王さまは、はらはらと涙をこぼていいました。
「なんてすばらしいのだ。どうか、いつまでもわしのそばにいておくれ」
 その日から、ナイチンゲールはりっぱな鳥かごをいただいて、ご殿で暮らすようになりました。
 さて、ナイチンゲールがやっとご殿の暮らしに慣れたころ、遠い国から王さまへ贈り物が届きました。
 それはダイヤモンドルビーで飾られた美しい金のウグイスで、ネジを巻くと尾をふって、それはみごとに歌うのでした。
「金のウグイスがいれば、わしは、なにもいらぬ」
 その王さまの言葉を聞くと、ナイチンゲールはまどからそっと飛び立って、森へ帰っていきました。
 そうして、一年たちました。
 ある晩、金のウグイスはブルルル、といったきり、動かなくなってしまいました。
 王さまは医者や時計屋をよんで、なんとか金のウグイスを歌わせようとしましたが、むだでした。
 心棒の折れたウグイスを、もとのように歌わせることなど、だれにもできなかったのです。
 それから、五年たちました。
 王さまは、重い病気にかかり、だれもが王さまはもう助かるまいと思っていました。
 新しい王さまも決まり、大臣や家来たちは、新しい王さまのあとばかり追いかけて歩いていました。
「たのむ。もう一度歌ってくれ。金のウグイスよ」
 病気の王さまは、ベッドの中で涙をこぼしました。
 そのとき突然、鈴をふるような歌声がまどのそばでひびきました。
 歌っているのは、森のナイチンゲールです。
 王さまが苦しんでいることを知って、なぐさめにきたのです。
 ナイチンゲールの声を聞いているうちに、王さまのからだに力がわいてきました。
 ナイチンゲールは、声をかぎりに歌いました。
(もう一度、元気になって。王さま!)
 その晩、王さまはグッスリとねむり、新しい朝がきたときには、青ざめていた冷たいほおは、バラ色にかがやいていました。
「ありがとう、ナイチンゲールよ。これからも、たびたび飛んできて、わたしをはげましておくれ」
 ナイチンゲールが森へ飛んでいったあと、家来たちがヘやへ入ってきました。
 家来たちは、てっきり王さまが亡くなったものと思って見にきたのです。
 元気になった王さまは、ビックリする家来たちをジロリと見回して、
「おはよう、みなの者」
と、いったのです。

おしまい

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