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 11月14日の世界の昔話
 
  
 よくばり牧師と一人の若者
 オランダの昔話 → オランダの国情報
  むかしむかし、デンマークのトンデという町に、とてもよくばりな牧師(ぼくし)さんがいました。牧師さんはとてもお金持ちで、大きな畑や牧草地を持っています。
 
 草かりの季節になると、牧師さんは知り合いの若者たちに牧草地の草かりを言いつけました。
 「馬車とお弁当を用意するから、わしの牧草地の草かりをやってほしい」
 若者たちはしぶしぶ引き受けると、馬車に乗って牧草地にむかいました。
 その途中、若者の一人が言いました。
 「なあ、あんなよくばり牧師のために、苦労して草をかることはないぜ。飲み物も食い物もあるんだから、たらふく食って昼寝でもしようじゃないか」
 「しかし、仕事をしないで大丈夫か?」
 「いいからいいから、せきにんはおれが全て引き受けるからさ」
 「そいつはありがてえ。じゃあ、楽しくやろう」
 みんなはお弁当食べると、お昼になるまで遊んですごしました。
 そして帰るとちゅう、若者はこがねムシがたくさんいる場所を通りかかるとみんなに言いました。
 「馬車をとめろ。さあみんな、あのこがねムシをカゴいっぱいに集めてくれ」
 「こがねムシを? どうしてだい?」
 「これを使って、あのよくばり牧師をギャフンと言わせてやるのさ」
 「へえっ、そいつはおもしろそうだ」
 若者たちは、こがねムシをカゴに集めて教会に帰りました。
 
 「牧師さま。ただいま帰りました」
 「ごくろう、牧草地は残らずかったかな?」
 「もちろんです。それから、とちゅうで良い物を見つけたんですよ」
 「若者よ、いったい何を見つけたのかね?」
 「はい、牧師さま。何とミツバチのむれがいたんですよ」
 「ほう。ミツバチか」
 ミツバチがいれば、あまいハチミツやロウソクなどを作ることが出来るので、とてもきちょうなこんちゅうでした。
 牧師さんはニヤリと笑うと、若者に言いました。
 「おお、そう言えばさっき、わしのミツバチが巣箱からにげたのじゃ」
 「えっ、ではあのミツバチは、牧師さんのミツバチですか?」
 「そうじゃ、わしのミツバチにちがいない」
 「しかし、あのミツバチはわたしが見つけた物ですよ。牧師さんはお金持ちですから、ミツバチは貧乏なわたしにくださいよ」
 「いや、若者よ。ミツバチはわしの物だ!」
 「おねがいです。そこをなんとか」
 「だめじゃ。一匹残らずわしの物だ! して、そのミツバチはどこにいるのだ?」
 「はい。このカゴの中です。・・・しかし牧師さま。そのかわり、わたしはのろいますぜ」
 若者はそう言うと、手を大きく広げて言いました。
 「カゴの中のミツバチよ、こがねムシになれ! おれたちのかった草よ、土にもどれ!」
 それを聞いた牧師さんは、大笑いです。
 「あはははは。何がのろいだ! そんな事が、お前に出来るものか」
 牧師さんが笑いながらカゴのふたを開けると、中にはこがねムシがいっぱい入っていました。
 「なっ、なんと! ミツバチがこがね虫に変わった! そっ、それでは、かった草はどうなってるいるのじゃ? そこの者よ、見てきてくれ」
 言われた使用人が牧草地に行ってみると、草はぜんぜんかってありません。
 「大変です、牧師さま! 若者ののろいで、かった草が全部元に戻っています」
 牧師さんはおどろいて、しばらくはポカンと口を開けたままでした。
 おしまい   
 
 
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