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 9月30日の世界の昔話
 
  
 ほら吹き男爵 愛馬リトアニア馬との出会い
 ビュルガーの童話 → ビュルガーの童話について
  わがはいは、ミュンヒハウゼン男爵(だんしゃく)。みんなからは、『ほらふき男爵』とよばれておる。
 今日も、わがはいの冒険話を聞かせてやろう。
 
 わがはいは、すばらしい犬だけでなく、見事なリトアニア馬も持っている。
 このリトアニア馬を手に入れたのは全くの偶然だが、そのおかげでわがはいは日頃鍛えた馬術の腕前を披露して、名声を高める事が出来たのだ。
 それは、わがはいがリトアニアのプルツォボフスキー伯爵から、素晴らしい別荘に招待されて、豪奢な広間でご婦人たちとお茶の時間を過ごしていた時だ。
 わがはいは、ここでも人気者で、得意の冒険話にご婦人たちも、
 「素敵ですわ」
 「勇ましい事」
 「すごいですわね」
 と、胸をわくわくさせて聞きほれていた。
 そして話もひと段落すると、ちょうど牧場から届いた伯爵ご自慢のリトアニア馬を見物するために中庭におりていった。
 すると、とつぜん、
 「大変だわ!」
 「助けてえ!」
 「きゃあー!」
 と、ただならぬ叫び声が聞こえた。
 「何事だ!」
 わがはいが急いで階段を降りてみると、何が気にさわったか、リトアニア馬が大暴れしているではないか。
 その暴れようは大したもので、垣根は壊すし、見事な花壇は目茶苦茶にするしで、連れてきた馬丁も怖がって近寄ろうとはしない。
 そして伯爵は、真っ青な顔で、
 「だ、だれか、馬をしずめてくれぇ〜」
 と、おろおろするばかり。
 それを見るなり、わがはいは、
 「ここは、おまかせあれ!」
 と、ひと声叫ぶと、ひらりとその暴れ馬にまたがって、手綱をぐいと引いた。
 そして馬の耳に、
 「わがはいは、ミュンヒハウゼン男爵だ。馬よ、おとなしくしないと焼いて食ってしまうぞ」
 と、ささやいたのだ。
 すると馬は、ぶるっと身震いをして、
 (ごめんなさい)
 と、言わんばかりに、おとなしくなった。
 どうやらわがはいの豪傑ぶりは、馬の世界でも有名らしい。
 「男爵、おかげさまで助かりました」
 一安心した伯爵は、わがはいに感謝の言葉をかけた。
 これで騒ぎは収まったのだが、座は、すっかりしらけてしまい、
 「暴れ馬を放し飼いにするとは、無責任にもほどがある」
 と、男たちは怒るし、
 「ねえ、また暴れ出さないうちに、はやく帰りましょう」
 と、ご婦人たちは、帰り出すありさまだ。
 困った伯爵は、わがはいに相談をしてきた。
 「このままでは、我が家の面目は丸つぶれです。男爵のお力で、何とかならんでしょうか?」
 「おまかせください」
 わがはいはにっこり笑うと、声高らかに言った。
 「皆さま! これから、馬術の妙技をごらんにいれましょう!」
 そして手綱さばきもあざやかに、開けっぱなしの窓から広間へと馬を乗り入れ、並み足、かけ足、速足と、馬を自在に操り、しまいにはテーブルの上で馬にちんちんをさせてみせたのだ。
 わがはいの馬術もさることながら、馬もさすがは名馬だ。
 テーブルの上に登っても、コップ一つ壊さなかったのだから。
 「わーっ!」
 「お見事、お見事!」
 「男爵さま、すてきですわ」
 割れるような拍手のうちに演技を終えると、伯爵は満足そうにわがはいに言った。
 「なんと、素晴らしい!
 あなたこそ、この馬の持ち主にふさわしい方だ。
 どうかわたしの贈り物として、この馬を受取っていただきたい。
 そして来るべきトルコ遠征にはミュンニヒ将軍に従って、輝かしい手柄を立ててくださるように」
 「ははっ、ありがたき幸せ」
 わがはいは、夢かとばかりに喜んだ。
 かねがね戦場に出て、ひと働きしたいと思っていたのだ。
 「相棒よ、しっかりやろうな」
 わがはいが、やさしく鼻づらをなでると、
 ヒヒヒーン!
 と、リトアニア馬は良き主人を持ったうれしさに、美しいたてがみをふるわせて、いさましくいなないた。
 かの勇将アレクサンダー大王が、愛馬ブツェファルスにうちまたがって出陣した時も、きっとこんな気持ちであっただろう。
 
 『良き名馬とは、良き乗り手がいてこそ実力を発揮する。
 乗りこなす実力がなければ、名馬は迷惑馬となる』
 これが、今日の教訓だ。
 
 では、また次の機会に、別の話をしてやろうな。
 おしまい   
 
 
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