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 3月22日の世界の昔話
 
 
  
 トコトコ歩くつぼ
 デンマークの昔話 → デンマークの情報
 
 ※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
 
 投稿者 「眠りのねこカフェ」
  むかしむかし、貧乏なお百姓が、町へ牛を売りに行きました。少し行くと向こう側から、一頭のヒツジを連れた男がやってきました。
 「やあ、ずいぶんと立派なヒツジだね」
 「ああ、そうだろう。何ならその牛と、取り替えてやってもいいよ」
 ヒツジを連れた男は冗談で言ったのですが、
 「ほんとうかい? ではそうしよう」
 と、お百姓は喜んで牛とヒツジを取り替えました。
 
 また少し行くと、今度はガチョウを連れた男がやってきました。
 「やあ、まるまると太って、美味しそうなガチョウだね」
 「ああ、そうだろう。何なら、ヒツジと取り替えてあげますよ」
 ガチョウを連れた男も冗談で言ったのですが、
 「ほんとうかい? ではそうしよう」
 と、お百姓は喜んでヒツジとガチョウを取り替えました。
 
 そして今度は、つぼを持ったおばあさんがやって来ました。
 「やあ、持ちやすそうなつぼを持っているね」
 「これかい? 道で拾ったやつだけど、よかったらガチョウと替えてあげようか?」
 「ほんとうかい? ではそうしよう」
 こうしてお百姓はガチョウとつぼを取り替えると、つぼを持って家に帰りました。
 
 「ただいま。ほら、なかなか良いつぼだろう。あの牛を色々な物に替えて、このつぼを手に入れたんだよ」
 するとおかみさんは、とても怒って言いました。
 「あんたは何て大馬鹿なの! 牛がそんな汚いつぼになるなんて大損じゃないの!」
 「そうなのか?」
 「当たり前よ!」
 「・・・ごめんな」
 怒られたお百姓はすっかりしょげて、つぼをきれいに洗うと棚の上に乗せておきました。
 
 さて、次の日の夕方。
 不思議な事に棚に乗せてあったつぼが、ぶつぶつとつぶやきだしたのです。
 「さあ、そろそろ出かけるか。大金持ちのうそつきじいさんの所へ」
 つぼは一人で動き出すと、トコトコと、おじいさんのお屋敷の台所へ入っていきました。
 お屋敷のコックさんは、つぼを見つけて喜びました。
 「これはスープを入れるのに、ちょうどいい大きさだ」
 コックさんは、おいしそうなスープをつぼにそそぎました。
 すると、つぼは、
 「さあ、そろそろ帰るか。貧乏な人の所へ」
 と、トコトコと、お百姓の所に戻って行きました。
 
 おいしいスープが入ったつぼがトコトコと帰ってきたので、お百姓とおかみさんは大喜びです。
 二人はつぼのスープを喜んで飲むと、つぼをきれいに洗って棚の上に乗せておきました。
 
 次の晩、つぼはまたぶつぶつつぶやきました。
 「さあ、そろそろ出かけるか。悪い金貸しの所へ」
 つぼがトコトコと金貸しの所へやってくると、金貸しはちょうど金貨を数えている所でした。
 「こりゃ、いいつぼだ。金貨を入れるのにぴったりの大きさだ」
 そう言って金貸しは、ありったけの金貨をザラザラとつぼに詰めました。
 すると、つぼは、
 「さあ、そろそろ帰るか。貧乏な人の所へ」
 と、さっさと金貸しの家を出て、お百姓の所に戻っていきました。
 お百姓は大喜びでお金を取り出すと、またつぼを棚の上に乗せました。
 
 そしてその次の晩も、つぼはまたぶつぶつつぶやきました。
 「さて、もう一度、出かけるか。金貸しの所へ」
 つぼは暗い夜の道をトコトコと歩き出して、金貸しの家に行きました。
 
 その頃、金貸しはつぼに仕返しをしてやろうと待ちかまえていました。
 「よし、またやって来たな。憎らしい泥棒つぼめ」
 金貸しはつぼが家に入ってくると、つぼの中にお金を入れるふりをして牛のフンを投げ込んだのです。
 「これでもくらえ!」
 その時、つぼは急に大きくなりました。
 そしてそのはずみに金貸しは、つぼの中に転げ落ちてしまったのです。
 「さて、そろそろ出かけるか」
 つぼは金貸しを入れたまま、トコトコと歩き出しました。
 「おいこら、どこへ行くんだ」
 金貸しがつぼの底から叫ぶと、つぼは答えました。
 「あんなにふさわしい所さ。地獄へ」
 金貸しを入れたつぼは暗い夜道をどこまでもトコトコ歩いていき、二度と帰ってはきませんでした。
 おしまい
 
 トコトコ歩く壺・おばあさんからのお礼バージョン(デンマークの昔話)
 
 ※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿参加希望は、メールをお送りください。→連絡先
 
 投稿者 「山本寛子」  問い合わせ先 gum2hiro@lake.ocn.ne.jp
  昔々、あるところに貧しいけれど心の優しいやもめ女が、子供たちと一緒に住んでいました。このやもめ女は、道の向かいにある大金持ちの地主の屋敷で働いていましたが、地主とそのおかみさんは意地悪で、いつもやもめ女をいじめていました。
 
 ある夜のこと。一人のみすぼらしい旅のおばあさんが地主の屋敷の前にやってきてドアを叩き「どうか私を泊めてください。」と、お願いをしました。
 すると地主のおかみさんが怖い顔をしながら出てきて「うるさいわね!さっさと行っちまいな!!」と言いながら、乱暴にもそのおばあさんを追い返してしまいました。
 おばあさんは仕方なく、今度は道の向かいにあるやもめ女の家の前に向かうと、同じようにドアを叩き「どうか私を泊めてください。」と、お願いをしました。
 するとやもめ女が出てきて「私たちの家は貧乏で食べ物が少ないのですが、どうぞお入りください。」と、優しく言いながら、おばあさんを家の中へ入れてあげました。
 そして粗末だけど心のこもった食事を出したり、自分たちは床に寝て、おばあさんをベッドへ寝かせてあげたりしました。
 
 翌朝、おばあさんはやもめ女に向かって「本当にありがとうございました。お礼にこの壺を差し上げます。」と言いながら、持っていた袋の中からきれいな壺を取り出しました。
 そして、「この壺を洗って床に置いてください。きっといいことがありますよ。」と言うと、どこかへ立ち去っていきました。
 
 やもめ女は早速、おばあさんからもらった壺を丁寧に洗って床に置いてみました。
 すると「そろそろ出かけようかな。」と、壺がしゃべるではありませんか。
 やもめ女が「どこへ?」とたずねると、壺は「売れずに困っている、年老いたパン屋さんの所へさ。」と答えながら、トコトコと歩き出しました。
 壺が向かった先には、一軒の小さなパン屋さんがありました。
 そこではおじいさんがパンを売っているのですが、最近町に大きなパン屋さんがたくさんできてしまい、おじいさんのパンは一つも売れなくなってしまいました。
 そこでおじいさんは、毎日パンが売れ残るたびに川に捨てていましたが、突然「捨てないで!」と声がしたので、おじいさんはびっくりして振り返ると、そこにはきれいな壺があるだけでした。
 壺は「僕の中にパンを入れて。」と言うと、おじいさんは訳のわからないまま、捨てようとしていたパンを壺の中にたくさん入れました。
 そして壺が「ついてきて。」と言ってトコトコと歩き出すと、おじいさんは不思議そうに壺の後についていきました。
 おじいさんが着いた所はやもめ女の家でした。
 おじいさんが窓をのぞいてみると、やもめ女と子供たちが、壺を囲んでおいしそうにパンを食べているのではありませんか。
 やもめ女が「おじいさん、おいしいパンをありがとう。」と言うと、おじいさんは「お金はいらないよ。捨てようと思っていた物だから。」と、うれしそうに言いました。
 
 またあるとき、「お菓子を作りすぎて困っている、修道女たちの所へさ。」と言うと、教会の方へトコトコと歩き出しました。
 そのころ、教会の台所では、修道女たちがお菓子をたくさん作りすぎて困っているところでした。
 そこへ壺が「僕の中にお菓子を入れて。」と言うので、修道女たちは壺に言われるままお菓子をたくさん入れました。
 そして壺の後についていき、やもめ女の家の窓をのぞくと、やもめ女と子供たちが壺を囲んでおいしそうにお菓子を食べているところでした。
 修道女たちは「きっと神様が私たちを導いてくれたのだわ。」と、うれしそうにつぶやきました。
 
 こうして壺は、心の優しい人に対しては、「僕の中に入れて。」と言ったり、理由を教えるために「ついておいで。」と言うのですが、意地悪な人に対しては、「ついておいで。」と言わずに「そろそろ帰るか。やもめ女の家へさ。」と言って立ち去るのでした。
 
 ある日、壺は「そろそろ出かけようかな。ごちそうの準備をしている、意地悪な地主の屋敷へ。」と言うと、道の向かいにある大金持ちの地主の屋敷の方へトコトコと歩き出しました。
 そのころ、地主の屋敷の台所ではコックさんがごちそうを作っていました。
 そこに壺が現れたのを見て、「これはスープを入れるのに、ちょうどいい大きさだ。」と言うと、おいしそうなスープをたくさん注ぎました。
 すると、壺は「さあ、そろそろ帰るか。やもめ女の家へ。」と、トコトコとやもめ女の所に戻っていきました。
 おいしいスープが入った壺がトコトコと帰ってきたので、やもめ女と子供たちは大喜びです。
 みんなは壺を囲んでスープをおいしそうに飲みました。
 
 次の日、壺はまた言いました。
 「さて、もう一度出かけるか。地主の屋敷へ。」と、また地主の屋敷へとトコトコ出かけていきました。
 そのころ、屋敷では、地主とおかみさんが金貨を数えているところでした。
 そこに壺がまた現れたのを見て、「あなた、金貨を入れるのにぴったりの大きさの壺があるわ。」と、おかみさんは地主に教えました。
 そして二人は、ありったけの金貨をザラザラとたくさん詰めました。
 「さあ、そろそろ帰るか。やもめ女の家へ。」と、さっさと地主の屋敷を出て、やもめ女の所へと戻っていきました。
 やもめ女と子供たちは大喜びで、金貨の詰まった壺を囲みました。
 
 
 そしてその次の日も、壺はまた言いました。
 「さて、また出かけるか。地主の屋敷へ。」
 壺は三度地主の屋敷へとトコトコ歩いて行きました。
 そのころ、地主とおかみさんは壺に仕返しをしてやろうと待ち構えていました。
 「あなた、また来たわよ。」
 「よし、憎らしい泥棒壺め。」
 地主とおかみさんは壺が屋敷に入ってくると、壺の中にお金を入れるふりをして牛のフンを投げ込んだのです。
 「これでもくらえ!」
 その時、壺は急に大きくなりました。
 そしてそのはずみに地主とおかみさんは、壺の中に転げ落ちてしまったのです。
 「さて、そろそろ出かけるか。」
 壺は地主とおかみさんを入れたまま、トコトコと歩き始めました。
 「おいこら、どこへ行くんだ!」
 地主とおかみさんが壺の底から叫ぶと、壺は答えました。
 「あんたたち二人にふさわしい所、地獄へさ。」
 地主とおかみさんを入れた壺は道をトコトコと歩いて行き、二度と帰っては来ませんでした。
 
 こうしてやもめ女と子供たちは、地主の屋敷に移り住みました。
 やもめ女は新しい地主になっても、無欲で心優しく、貧しい人々に尽くしたため、たくさんの尊敬を集めたということです。
 おしまい         
 
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