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 11月7日の日本民話
 
  
 宝のしゃもじ
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 制作: ぐっすり眠れる癒しの朗読【壽老麻衣】フリーアナウンサーの読み聞かせ
  むかしむかし、赤玉(あかだま)という村に、次郎右衛門(じろえもん)とおじいさんと、おときというおばあさんが住んでいました。二人は貧乏なので、その日に食べるご飯もろくにありません。
 
 ある日の事、おときおばあさんが杉池(すぎいけ)の近くで草取りをしていると、見事な白馬が池のほとりで草を食べていました。
 「はあ、なんと立派な白馬だろう。しかし何でこんなところに、白馬がいるんだろう?」
 おときおばあさんは不思議に思いながらも、草取りを続けました。
 
 夕方になって草取りは終わりましたが、あの白馬はまだ草を食べています。
 「白馬よ。お前、もしかしてまいごになったんか?」
 おときおばあさんが白馬に近づくと、いきなり池の水がザザザーーッと盛り上がり、中から二匹の大蛇がからみ合って出てきました。
 「うぇー!」
 びっくりしたおときおばあさんはその場で腰を抜かすと、目を閉じてただ一心にお経をとなえました。
 やがて静かになったので、おときおばあさんがそっと目を開けると、目の前に若い男女が立っていました。
 男の方が、おときおばあさんに声をかけます。
 「おばあさん、おどかしてごめんなさい。
 実はわたしたちは、人間ではありません。
 わたしはこの池に住むオスヘビで、この女は立島(たつしま)の太郎左衛門池(たろじえむいけ)に住むメスヘビです。
 わたしたちは好き合っているので、時々こうして白馬に乗ってお互いのところへ会いに来るのです。
 でも、この事を人間が知れば、わたしたちのじゃまをするかもしれません。
 お願いですから、どうかこの事を誰にも言わないで下さい。
 言わないと約束して下さるなら、このしゃもじを差し上げましょう。
 このしゃもじは一粒の米を鍋に入れてかき回せば一升のご飯になり、二粒なら二升のご飯になります。
 ただし、これはおばあさんだけの秘密にして下さい」
 男女はそう言って一本のしゃもじを差し出すと、どこかへ消えてしまいました。
 
 さて、おばあさんは家に帰ると、言われたようにお米を一粒鍋に入れてしゃもじでかき回してみました。
 するとたちまち一粒のお米がどんどん増えて、やがて鍋一杯のご飯が出来上がったのです。
 「何とも、不思議なしゃもじだ。しかし鍋一杯も、食べきれないねえ」
 年寄り二人だけの暮しだったので、おときおばあさんはあまったご飯は海にすてました。
 するとそこへ魚がいっぱい集まってきて、海草もふえました。
 おかげでご飯だけでなく、魚や海草にも不自由しなくなりました。
 
 そんなある日、おじいさんは、おときおばあさんにたずねました。
 「なんでわしらは、こんなに食べ物に不自由しないんだ?
 魚や海草はともかく、米はどこから手に入れるんだ?
 米びつの米は、少しもへっとらんようだが」
 「えっ?
 それは・・・。
 まあ、そんな事どうだっていいじゃないですか。
 毎日こうして、お腹いっぱいご飯が食べられるのだから」
 「しかしな」
 「男の人が、台所の事を心配せんでもええよ」
 「まあ、それはそうだが・・・」
 おときおばあさんは何とかごまかしましたが、それでもおじいさんはお米がなくならない秘密を知りたくて、仕事に行くふりをして台所にかくれていたのです。
 そしておじいさんは、不思議なしゃもじの事を知ったのです。
 「ばあさん、そのしゃもじは何じゃ!? そのしゃもじでかき回すと、米かふえたようじゃが」
 「あれ? おじいさん、どうしてそんなところに?」
 「そんな事は、どうでもいい。とにかく、そのしゃもじを見せてみろ」
 「おじいさん、これだけはかんべんしてください」
 「いや、見せるんじゃ」
 おじいさんは、おときおばあさんからしゃもじをむりやり取り上げてしまいました。
 するとそのひょうしに、しゃもじは二つに割れてしまったのです。
 「あっ!」
 
 その時から、いくらしゃもじでお米をかき回しても増えることはなく、二人はまた貧乏な暮らしに戻ってしまいました。
 おしまい   
 
 
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