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 9月24日の小話 
 おけちみゃくのしるし   ある日、地獄(じごく)のえんま大王が、首をかしげながら言いました。「どうした事じゃ? 近頃は地獄ヘ、いっこうに亡者(もうじゃ→じごくへくる死人のこと)どもがやってこぬが」
 えんま大王はさっそく、手下の鬼(おに)をしゃば(→人間の世界)におくって、原因を調べさせました。
 すると調べに行った鬼たちは、えんま大王にこんな報告をしました。
 「大王さま。なんでも信州信濃(しんしゅうしなの)の善光寺(ぜんこうじ)に、おけちみゃく(お血脈)のしるしというありがたいはんこがあるそうです。そしてそのはんこをおでこにペタンとおすと、どんな大悪人も罪を許されて極楽(ごくらく→てんごく)へ行けるのだそうです」
 それを聞いた、えんま大王は、
 「これは地獄の一大事」
 と、さっそく鬼たちを集めて、会議を開きました。
 「このままでは地獄の仕事がなくなり、失業者が増えるばかりでござる」
 「我々の老後のためにも、なんとかせずばなりますまい」
 「しかし、どうすれば良いのだ?」
 「決まっておる、善光寺のおけちみゃくのご印とやらを、盗み出すのだ」
 「そうだ、それがよい」
 「しかし、盗むといっても誰がだ? 善光寺の守りはかたいぞ」
 「大丈夫。地獄には天下の大泥棒の『石川五右衛門(いしかわごえもん)』がおるわ」
 こうして五右衛門は、えんま大王の前に呼び出されました。
 「五右衛門、しばらくぶりだなあ。もう、地獄の暮らしにはなれたか?」
 えんま大王の言葉に、五右衛門は顔をしかめました。
 (ふん! 毎日毎日、針の山や血の池で苦しめやがって)
 しかしえんま大王はそれには気づかず、ニンマリと笑って言いました。
 「実はな、これこれ、かくかく、しかじか、かようなわけで、いまは地獄の一大事。この地獄の危機を救うのは、お前しかおらん。さっそく善光寺ヘまいり、おけちみゃくのご印を盗んでこい」
 「・・・ははっ」
 五右衛門は地獄から出してもらうと、信州信濃の善光寺にやってきました。
 そしてげんじゅうに守られているご印を、簡単に盗み出しました。
 「これだな、どんな大悪人でも、極楽へ行ける印は」
 五右衛門は印を持って地獄へ戻ろうとしましたが、ふと立ち止まると考えました。
 「しかし、これを大王に渡しても、得をするのは大王や鬼ども。おれはそのまま、地獄暮らしか。・・・それなら」
 五右衛門は、自分のおでこにご印を押しつけました。
 とたんに、全ての罪を許された石川五右衛門は、極楽ヘ飛んでいってしまいました。
 ♪ちゃんちゃん(おしまい)
  
 
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