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9月24日の百物語

ガンの悲しみ

ガンの悲しみ
愛知県の民話愛知県情報

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音声 ひかる

 むかしむかし、ある村に、久兵衛(きゅうべえ)というお金持ちのお百姓(ひゃくしょう)がいました。
 久兵衛は弓で矢を射るのが大好きで、蔵(くら)の中に弓矢の練習用の的(まと)を作ると、暇(ひま)さえあれば矢を射て楽しんでいました。

 ある日の事、久兵衛が蔵の中で矢を射ていると、家の者が急用だと言って久兵衛を呼びました。
 久兵衛が弓を置いたまま蔵を出ていくと、そこに家でやとっている平吉(へいきち)という若者がやって来て、弓を目にすると主人の久兵衛を真似て弓に矢をつがえました。
 そして弦(げん)を力一杯引き絞ると、わらの的めがけて矢を放ちました。
 ところが矢は外れて、蔵の窓から外へ飛んで行ってしまったのです。
「しまった! 誰かに当たったら大変だ!」
 平吉はすぐに外へ出ると、矢を探しに行きました。
 すると矢は窓の向こうにある田んぼのあぜ道まで飛んでいて、一羽のガンに当たっていたのです。
「こいつは、大変な獲物(えもの)だ」
 平吉は大喜びでガンを家に持ち帰ると、主人の久兵衛に弓を使った事を謝り、自分が射止めた獲物のガンを差し出しました。
 久兵衛は平吉のイタズラを許すと、ガンを料理させて、みんなでガン鍋に舌つづみをうったのでした。

 その次の日、平吉がガンを射た田んぼのあぜ道へ行くと、一羽のメスのガンが悲しい声で鳴いていました。
 そしてその夜、平吉の夢の中にあのメスのガンが現れて、涙を流しながらこう言ったのです。
「死んでしまったものは、仕方ありません。あなたをうらむ気持ちはありませんが、どうか殺された夫を供養(くよう)してください」
 そして同じ夢が何日も続くので、平吉は主人の久兵衛に病気だと言って勤めをやめると、その日のうちに頭をそってお坊さんになり、浜辺の近くに小さな家で射殺したガンの霊を供養(くよう)しながらお坊さんの修行を始めました。

 そしてそれから、二十三年後。
 平吉は村の人たちに、こう言いました。
「若い頃に射殺したガンの供養が、ようやく終わりました。これでもう、思い残す事はありません。わたしは間もなく、この世を去ります」
 そして平吉は、間もなくこの世を去りました。
 平吉がこの世を去った日は、ガンを射殺した日から、ちょうど二十三年目だったそうです。

おしまい

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