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 12月8日の日本の昔話
 
  
 ヘビ女房
  むかしむかし、炭焼きがしごとの男がいました。この男、心はやさしいのですが、よめさんももらえぬほどの貧乏(びんぼう)でした。
 ある日のこと。
 男が炭焼きがまに火を入れると、かまのうしろから大きなヘビがはいだしてきました。
 「おっ、よく見かけるヘビだな。ああっ、かまに近づいちゃ、あぶないじゃないか。ほれ、あっちいけや」
 男はヘビを、外の草むらに出してやりました。
 その夜、男の家に、美しいむすめがたずねてきました。
 「わたしは、あなたを山でよく見かけていました。なんでもしますから、よめさんにしてください」
 むすめをひと目見ただけで好きになった男は、よろこんでいいました。
 「ごらんのとおりの貧乏で、何もないが、それでもいいなら」
 こうして、むすめは男のよめさんになったのです。
 よめさんは働き者で、くらしむきもだいぶよくなってきました。
 男はとてもしあわせでした。
 やがて、よめさんのおなかに子どもができました。
 いよいよ生まれるというとき、よめさんは男にいいました。
 「いまから赤んぼうを生みますが、わたしがよぶまでは、けっして部屋をのぞかないでください」
 「わかった。やくそくする」
 だけど、赤んぼうの泣き声が聞こえると、男は思わず、戸のすきまから中をのぞいてしまいました。
 「あっ!」
 男はビックリしました。
 部屋いっぱいに大蛇がとぐろをまき、そのまん中に、生まれたばかりの赤んぼうをのせて、ペロペロとなめているのです。
 人間にもどったよめさんは、赤んぼうをだいて出てくると、かなしそうにいいました。
 「あれほど、見るなとたのんだのに・・・。わたしは炭焼きがまの近くの池にすんでいたヘビです。あなたが好きでよめさんになりましたが、正体を見られたからには、もう、いっしょにはいられません。赤んぼうが乳をほしがったら、この玉をしゃぶらせてください。わたしは山の池にもどります」
 よめさんは赤んぼうと水晶のような玉をおくと、すがたをけしてしまいました。
 男はとほうにくれましたが、赤んぼうは母のくれた玉をしゃぶって、すくすくとそだちました。
 「母親がいないのに、ふしぎなこともあるもんだ」
 玉の話はうわさになって、ついに殿さまの耳にもとどきました。
 「その玉をめしあげろ!」
 玉は、殿さまにとりあげられてしまいました。
 玉をとりあげられた子どもは、お腹が空いてなきさけびます。
 男はこまりはて、子どもをだくと、よめさんのいる山の池にいって声をかけました。
 「ぼうのかあちゃんよう。どうか乳をやってくれ。あの玉は殿さまにとられちまったんだ」
 すると、よめさんがあらわれ、
 「この子のなくのがいちばんせつない。・・・さあ、これをしゃぶらせてくだされ」
 と、いい、またひとつ玉をくれると、スーッときえました。
 玉をしゃぶった子どもは、たちまちなきやんで、元気にわらいました。
 ところが、その玉もまた、殿さまにとりあげられてしまったのです。
 お腹の空いた子どもは、またなきさけびます。
 またまたこまった男は池にいき、ことのしだいを話しました。
 すると、あらわれたよめさんは、かなしげに目をふせて、
 「じつは、あの玉はわたしの目玉だったのです。ふたつともあげてしまいましたから、もう玉はないのです」
 「そ、それでは、目も見えないではないか、ああ、むごいことをしてしまった」
 男は、だいた子どもといっしょになきました。
 それを見たよめさんは、
 「ああ、いとしいあなたやこの子をなかせる者は、ゆるさない。いまから仕返しをします。さあはやく、もっと高いところへ行ってください。・・・この子のことは、たのみましたよ」
 そういうと、よめさんは見る間に大蛇のすがたになって、ザブン! と池にとびこみました。
 池の水が山のようにふくれあがり、まわりにあふれだします。
 男はわが子をかかえ、むちゅうで高い方へかけのぼりました。
 のぼってのぼってふりかえると、池はふきあげるように水をあふれさせ、ふもとのお城まで流れていきます。
 そして、あっという間に殿さまもろともお城をのみこみ、どこかへおし流してしまいました。
 おしまい   
 
 
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