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福娘童話集 > きょうの日本昔話 > 8月の日本昔話 > 鬼の住むほら穴 
      8月2日の日本の昔話 
          
          
         
  鬼の住むほら穴 
      
       むかしむかし、ある山のほら穴に、四匹の鬼が住んでいました。 
   そこは深い谷の中ほどにあるほら穴で、めったに人の近づかない場所です。 
   鬼どもは、ときどき、このほら穴から村へおりてきて、畑をあらし、ときには子どもまでさらっていくのです。 
   村人たちはすっかりおびえてしまい、仕事もまんぞくにできず、子どものいる家では、一日じゅう雨戸(あまど)をしめたまま、外へも出ませんでした。 
   たまたま、この話を聞いた坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)という武将(ぶしょう)が、ウマに乗り、大勢の家来をつれてやってきました。 
   田村麻呂(たむらまろ)の鬼退治は有名で、どんなに手ごわい相手でも、かならずやっつけてしまうのです。 
   村人の案内で田村麻呂と家来の一行は、鬼の住むほら穴をめざして進んでいきました。 
   山道の途中まで来たとき、村人が言いました。 
  「あの谷の途中(とちゅう)あたりに鬼がいるそうです。でも、まだそこへ行った者はいません」 
   田村麻呂はウマをとめると、家来たちに武器の手入れを命じます。 
   弓のつるをはりなおしたり、刀の手入れをした家来たちは、まるで本物の戦を始めるみたいに、よろいやかぶとで身をかためました。 
   田村麻呂を先頭(せんとう)に、どんどんくだっていくと、谷の上につきでた大きな岩の上で、鬼どもがのんびりと日なたぼっこをしていました。 
  「みんな、ぬかるでないぞ」 
   田村麻呂はウマからおりて、身をふせましたが、目のいい鬼どもは、一行の姿に気がつき、あわてて立ちあがりました。 
  「やや、おかしな連中が来るぞ。さてはわしらをやっつけようというのだな」 
   一匹の鬼がいうと、親分らしい鬼が一行を見て大声をはりあげました。 
  「やい、そこなやつ、わしらをやっつけようとは片腹痛いわ。殺せるものなら殺してみよ」 
   田村麻呂も、負けずにいい返しました。 
  「おのれ、にっくき鬼め。かならずしとめてくれるわ」 
   田村麻呂の合図で、家来たちは、つぎつぎと矢をいかけます。 
  「ふん、こしゃくな」 
   鬼どもは鉄棒をふりまわして、飛んでくる矢をたたき落としますが、さすがは田村麻呂の家来だけあって、どの矢もするどくうなりをあげて飛んでくるので、ついには、そのうちの何本かが鬼のからだにつきささりました。 
   これには鬼どももビックリして、鉄棒をひきずりながら、逃げだそうとしました。 
  「それっ! 逃がすなー!」 
   田村麻呂は長い刀をひきぬくと、すばやく岩の上へかけのぼり、鬼の親分の首に切りつけます。 
  「ギャオオオオ!」 
  と、いう悲鳴(ひめい)と同時に、鬼の首が空高くはねあがり、ものすごい顔で田村麻呂めがけてとびついてきました。 
   ですが、田村麻呂はすばやく身をかわしたので、鬼の首は近くの木の根もとにかみつき、目を光らせたまま動かなくなりました。 
   残った三匹の鬼どもも、家来たちによって切りたおされ、ついに四匹の鬼が退治されたのです。 
   そのとき、ほら穴の奥から、だれかのすすり泣く声が聞こえてきました。 
   家来たちがほら穴にかけこんでみますと、フジ(マメ科のつる草の総称)のつるでからだをしばられた女の子が泣いていました。 
   わけを聞くと、二、三日前にここへつれてこられたというのです。 
   しかし、鬼どものえじきになったのか、それより前にさらわれた子どもたちの姿は、どこにもありませんでした。 
   田村麻呂の一行は、女の子を助け、村へともどってきました。 
   娘の母親はわが子の無事な姿を見て、うれし涙をこぼします。 
   田村麻呂のおかげで、ほら穴に鬼はいなくなり、村の人たちも安心して暮らせるようになりました。 
      おしまい 
         
         
         
        
 
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