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5月8日の日本の昔話

牛池

牛池

 むかしむかし、ある山の中に、美しい水をたたえた深い池がありました。
 その池からさほど遠くない小さな山里に、欲の深いおばあさんと心やさしい娘が住んでいました。
 娘が家の窓から顔をのぞかせると、外は白い雪が降り続いていました。
「ああ、烏や牛に生まれた方が、どれほどよかったか」
 娘はそう言って、小さなため息をつきました。
「こらっ、また機(はた)をさぼっておるな! この役立たずが!」
 おばあさんが恐ろしい声でそう言うと、娘の顔をぴしゃりと叩きました。
 この娘は、毎日毎日休むことなく機をおらされているのでした。
「早く機おりをせんか! よその娘は一冬に四反もおりあげるというのに、このグズ娘がっ!」
 おばあさんが部屋を出て行くと、娘はそっと涙を流しました。
「四反なんて、どう頑張ってもおれるわけねえ。でも、少しでもおらないと、ご飯を食べさせてもらえないし」
 娘は寒さにふるえながら、また機おりを始めました。
♪わたしの機は、誰が着る?
♪おしろい塗って、紅をさし
♪かんざしつけた娘かな?
♪どんな娘か、見てみたいな
 娘が悲しく歌いながら機をおっている隣の部屋では、おばあさんが反物を売って何を買おうかと考えていました。

 こうしているうちに、春が来ました。
 家から一歩も出してもらえない娘も、春が来るとうれしいものです。
 そんなある日、一羽の白い小鳥が舞い込んできました。
「ああ、きれいな小鳥」
 娘は小鳥に見とれて、思わず機をおる手足の調子を乱して機の縦糸をバッサリ切ってしまいました。
「あっ!」
 その縦糸が切れた音に気づいたおばあさんは、部屋に飛び込んで来ると狂った様に叫びました。
「このグズ娘がっ! 早くなおせ! なおらんうちは、一粒の飯も食わさんからな!」

 その真夜中、ようやく縦糸をなおした娘は、眠っているおばあさんに気づかれないように家を抜け出しました。
 娘が家の外に出たのは、何年ぶりでしょう。
「娘は夜空に浮かぶ月を見上げると、つぶやきました。
「きれい。外はこんなにきれいだったの? でもわたしは、いつも家の中。・・・どこかへ行きたい」
 娘は悲しくなって、そのまま泣き崩れてしまいました。
 その時ふと、何かが娘のそばに近寄って来ました。
(おばあさん?!)
 娘がびっくりして顔を上げると、そこにいたのはおばあさんではなく、おばあさんが飼っている牛でした。
 牛はやさしい目で娘を見つめると、自分の背中に乗るように合図をしました。
「まあ、あなた、わたしをどこかへ連れて行ってくれるの? お願い、どこでもいいから連れて行って」
 娘の言葉がわかったのか、娘を背中に乗せた牛は、月光の中をゆっくりゆっくりと歩き出し、そのままどこかへ行ってしまいました。

 その後、山の池は牛池という名がつけられました。
 不思議な事に牛池では月の明るい晩になると、『トンカラリ、トンカラリ』と、機をおる音が聞こえてくるということです。

おしまい

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