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7月12日の世界の昔話

銀の鼻

銀の鼻
イタリアの昔話 → イタリアの国情報

 むかしむかし、イタリアのある町に、せんたく屋のおかみさんがいました。
 おかみさんには、三人の娘がいます。
 おかみさんと娘の四人は、毎日せっせとせんたく物を洗らってはたらいていましたが、くらしは少しもらくになりません。
「いっそのこと、悪魔(あくま)のところでもいいから、奉公(ほうこう→住み込みではたらくこと)にいこうかしら」
 ある日、一番上の娘がいいました。
「まあ、なんてことをいうんだい! そんなことをしたらどんなふこうな目にあうか、わからないのかい」
と、お母さんは娘をしかりました。
 それからしばらくしたある日、黒い服をきて、銀の鼻をした上品な紳士がやってきて、ていねいな言葉つきでいいました。
「おかみさん。おたくには娘さんが三人もいますね。そのうちの一人を、わたしの家に奉公におだしになりませんか?」
 お母さんは、その人が銀の鼻をしているのが気にいりませんでした。
 そこで、姉娘にいいました。
「ねえ、世の中には銀の鼻をしている人なんていないよ。きっと悪魔にちがいない。奉公にいったら、きっと後悔することになるよ」
 でも姉娘は、こんないい話はないと、銀の鼻の紳士の家に奉公にいくことにしました。
 こうして二人は、いくつもの山をこえ、森をとおりぬけて、長い道のりを歩いていきました。
 すると、はるか遠くのほうに、火事のようにボーッと明るくなっているところが見えました。
「あれは、なんですか?」
 姉娘は、すこしこわくなってききました。
「わたしの家だよ。さあ、いこう」
と、銀の鼻の人は答えました。
「・・・・・・」
 姉娘は、しぶしぶとついていきました。
 二人は、銀の鼻の大きな宮殿(きゅうでん)につきました。
 銀の鼻は、宮殿のへやからへやを案内して、そしてさいごのへやの前へくると、姉娘にカギをわたしていいました。
「ほかのへやはいつでも入っていいが、このへやだけは、どんなことがあっても開けてはいけないよ」
 その晩、娘がへやでねむっていると、銀の鼻はそっと入ってきて、娘のかみにバラの花をさして出て行きました。
 明くる日、銀の鼻は用事ででかけていきました。
 娘は、あのへやを開けてみたくてたまりません。
 そしてとうとう、ひみつのへやのとびらに、かぎをさしこんでしまいました。
 とびらを開けると、へやの中からまっ赤な炎がふき出して、中ではやけただれた人がおおぜい苦しんでいました。
 銀の鼻は、やっぱり悪魔だったのです。
 姉娘は、アッとさけんでにげだしましたが、そのときに、髪のバラの花がこげてしまいました。
 銀の鼻はかえってきて、バラの花がこげているのに気がつくと、
「よくも、いいつけにそむいたな!」
と、さけんで、娘を地獄のへやになげこんでしまいました。
 あくる日、銀の鼻はまた、せんたく屋のおかみさんのところへいきました。
「娘さんは、たいへんしあわせにはたらいています。でも、まだ人手がたりません。二番目の娘さんもよこしてください」
 それで二番目の娘も、奉公することになりました。
 宮殿につくと、銀の鼻はへやからへやを案内し、さいごのへやの前でカギをわたしていいました。
「このへやは、どんなことがあってもあけてはいけないよ」
 その晩、二番目の娘がねむっていると、銀の鼻はそっと入ってきて、髪の毛にカーネーションの花をさしました。
 あくる日、銀の鼻は用事ででかけました。
 娘は、あのへやをあけてみたくてたまりません。
 すぐに、ひみつのへやの前へいって、カギでとびらをあけました。
 すると、まっかな炎と黒い煙がふきだして、火のへやの中にねえさんの姿を見つけました。
「妹よ。たすけて、たすけて」
 ねえさんのさけび声をきくと、ビックリした妹は、あわててとびらをしめてにげだしました。
 やがてかえってきた銀の鼻は、娘のカーネーションが、こげてしおれているのに気がつきました。
「よくも、あのへやをあけたな!」
 悪魔は娘をつかまえると、地獄のへやの中へなげこんでしまいました。
 あくる日、銀の鼻はまた、せんたく屋の店にいって、一番りこうな末娘のルチーアをつれてきました、
 銀の鼻は宮殿のへやを案内してから、さいごのへやの前で、ねえさんたちにいったこととおなじことをいって、カギをわたしました。
 そして、ルチーアがねむっているとき、こんどは髪にジャスミンの花をさしました。
 あくる朝ルチーアは、鏡に顔をうつして、髪のジャスミンに気づきました。
「まあ、きれいな花。でも、これではじきにしぼんじゃうから、コップにさしておきましょう」
 そういって、花をコップにさしました。
 銀の鼻は、用事ででかけました。
 やはりルチーアも、あのへやをあけてみたくてたまりません。
 すぐにとんでいって、ひみつのへやのとびらをあけました。
 すると、
「ルチーア。たすけて、たすけて」
 火のへやの中から、かなしい姉たちの声がきこえました。
 ルチーアは自分のへやへにげかえると、ジャスミンの花を髪にさし、どうしてねえさんたちをたすけようかとかんがえました。
 銀の鼻がかえってみると、ジャスミンの花はそのままです。
「おまえは、いいつけをよく守るよい子だ。ずっといてくれるね」
「はい。でも、お母さんがどうしているか気がかりです」
「じゃあ、わたしがいって見てくるよ」
 ルチーアは銀の鼻がでかけると、いちばん上のねえさんを地獄のへやからたすけだして、袋の中にいれました。
 やがて、銀の鼻がかえりました。
「ご主人さま。これはせんたく物です。うちへとどけてください。重いですが、道のとちゅうであけて見てはいけません。わたしはここで見はっていますよ」
「いいとも。あけやしないよ」
と、いって、銀の鼻はでかけました。
 銀の鼻は袋があまり重いので、道のとちゅうで肩からおろして、中を見ようとしました。
 すると、
「見てるわよ。見てるわよ」
と、いう声がきこえました。
 ルチーアはねえさんに、もし袋があけられそうになったら、そういうようにいっておいたのです。
 銀の鼻はしかたなく、重い袋をかついでお母さんのところへとどけました。
 こうしてまもなく、二番目のねえさんもうちへかえることができました。
 そしてこんどは、ルチーアがにげるばんです。
 ルチーアは、自分そっくりの人形をつくりました。
「ご主人さま。わたしはからだのぐあいが悪くて、あしたはねているかもしれませんが、ベッドのわきのせんたく物をまたとどけてください」
 そういって、あくる日ルチーアは人形をベッドにねかせ、自分は袋の中にはいりました。
 銀の鼻は袋をかついででかけましたが、重くてたまりません。
 そこで袋をおろして、中を見ようとしました。
 すると中から、
「見てるわよ」
と、いう声がきこえてきました。
「あの子にはかなわん。まるで、そばで見ているようだ」
 銀の鼻はしかたなく、そのままかついでお母さんのところへとどけました。
「では、せんたく物はここへおくよ。わたしはルチーアが病気なので、いそいでかえらなくてはならんから」
と、銀の鼻はいそいでかえっていきました。
 親子四人は、手をとりあって喜びました。
 ルチーアは悪魔の家からお金をたくさん持ってきていたので、くらしがらくになったばかりか、戸口には魔よけの十字架を立てたので、悪魔はもうよりつきませんでした。

おしまい

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