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 12月29日の世界の昔話
 
  
 ライオン王子の先生
 ロシアの昔話(クルイロフ童話) → ロシアの国情報
  むかしむかし、森の王さまのライオンと、おきさきライオンが、生まれて間もない子ライオンのそばでこんな事を話し合いました。「この子は、わしの大事な跡継ぎだ。大きくなって王の位についた時の為に、立派な教育をしなければならんな」
 「それでは王子の教育係を決めて、色々な事を教えてもらったらどうですか?」
 「それは良い考えだ。だが、誰がいい?」
 「そうですね。キツネなら頭が良くて、とても物知りですわ」
 「キツネ? だめだ、だめだ! 確かにあいつは頭は良いが、あいつはうそつきだ。うそつきなんかに、大事な王子の教育を任せられるものか」
 「それでは、モグラはどうでしょう。とても正直で、きちょうめんですわ」
 「モグラか? うむ、だがあいつは土の中で暮らしているせいか、太陽の下ではろくに目が見えんというではないか」
 「それなら、ヒョウはどうでしょう? ヒョウはとてもゆうかんで力も強く、動きも素早いですわ。ヒョウならきっと、王子を申し分なくきたえてくれますわ」
 「ヒョウ? だかヒョウはケンカが好きで、すぐに争いをおこす悪いくせがある。王子の教育係には、ふさわしくない」
 こうして王さまとおきさきは話し合い、ゾウ、キリン、ウシ、イノシシなど、思いつく動物を出し合いましたが、みんなそれぞれに欠点があって、王子の教育係には向いていませんでした。
 「まったく、王子の教育係はどこにもいないのか?」
 ライオン王は、大きなため息をつきました。
 するとそこへ、鳥の王さまのワシがやって来て言いました。
 「お話は聞きました。よろしければわたしが、王子を教育しましょうか?」
 「おお、ワシどの。あなたなら安心だ」
 「そうですね。ワシ王なら、王子の教育係にぴったりですわ」
 王さまライオンとおきさきは、大喜びです。
 なにしろ相手は自分と同じ王さまなので、これ以上の教育係はどこを探してもいません。
 そこで王さまはまだ赤ん坊の王子を三年間、ワシ王に預ける事にしたのです。
 
 それから一年が過ぎ、二年が過ぎました。
 その間に鳥の国の小鳥たちは、何度も森へ飛んで来ては、
 「王子さまは、とてもかしこく、立派にお育ちになっています」
 と、ふれまわったのです。
 ライオン王も、おきさきも、そして森のけものたちも、王子の成長を楽しみに待ちました。
 そしてついに三年目、ライオン王子はとても立派に成長して帰ってきたのです。
 「おおっ、とても立派だ。わしの若い頃にそっくりだ。やはり、鳥の王のワシに預けただけの事はある」
 王さまは大喜びで、王子を抱きしめました。
 「王子よ。今日からお前が王となって、森を治めるのだ。すぐに、森のみんなを呼び集めよう。お前は今日まで何を習い、何を覚えてきたか。そしてみんなを幸福にするために、どんな事を考えているかを話してきかせるのじゃ」
 王さまの呼びかけに、森のけものたちが集まってきました。
 高い崖の上に立ったライオン王子は、見事なたてがみを日の光に輝かせて、誇らしげに胸を張ると演説(えんぜつ)を始めました。
 「わたしは、ここにいる誰もが知らない事を知っている。
 どんな鳥は、何を食べるか。
 どんな卵を産むか。
 それからカラスやウズラにいたるまで、どの鳥はどのくらいの水を飲むか。
 どのくらい、空を飛べるのか。
 鳥についての事なら、何一つ知らない事はない。
 わたしは王の位についたなら、何よりもまず、みんなに鳥の巣作りを教えるであろう。
 それからわたしは・・・」
 王子はなおも得意げに鳥の話しを続けましたが、聞いていた王さまも動物たちも、みんながっかりです。
 「なんと、くだらない事を覚えてきたのだ」
 鳥の事をいくら知っていても、森の生活には少しも役立ちません。
 「仕方ない、自分で王子を育てず、人任せにしたわしが悪いのだから」
 得意げにまだ鳥の話を続ける王子の側で、王さまとおきさきライオンは大きなため息をつきました。
 
 これは、人に何かをお願いする時は、その人がどの様な人かを考えないと、こんなとんでもない事になると言う事を教えています。
 おしまい   
 
 
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