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第 289話

鬼も恐がるカボチャ

鬼も恐がるカボチャ
京都府の民話京都府情報

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 むかしむかし、栗田峠(くつたとうげ)には、お酒の大好きな鬼が住んでいて、いつもお月さまをながめながらお酒をチビリチビリとやっていました。
「いい月だ。どれ、風もあたたかいし散歩でもするか」
 鬼はそう言うと、ふらふらと山を下って里に行きました。

 もう遅いので、里ではどの家も灯りを消しています。
 するとどこからか、子どもの泣く声が聞こえてきました。
 その声は、村一番の金持ち屋敷から聞こえてきます。
 酔っ払った鬼は金持ち屋敷へ行くと、子ども部屋の前でしゃがみました。
「どれ、ちょっとおどろかしてやろうか」
 すると家の中から、子どものお母さんが言いました。
「坊や、泣くんじゃないよ。甘いアメをあげようね」
 でも、子どもは泣きやみません。
「それなら、おいしい豆をあげようね」
 それでも子どもは、泣くばかりです。
 そこでお母さんは、子供に言いました。
「ほれほれ、そんなに泣いたら外に隠れている怖い鬼が出てきて、坊やを連れて行ってしまうよ」
 お母さんの言葉に、鬼はびっくりしました。
「なっ、なんで、おれがここに隠れているのを知っているのだ?」
 それでも泣きやまない子どもに、お母さんは戸棚からカボチャの種を煎り豆にした珍しいおかきを子どもに見せて言いました。
「それなら、これはどうだい? ほーら、カボチャだよ」
 そのとたん、子どもはぴたりと泣きやんで、うれしそうにカボチャの種をポリポリと食べ始めました。
 部屋の外でそれを聞いていた鬼は、またまたびっくりです。
「怖い鬼が来ると言っても泣きやまなかったのに、カボチャと聞いたとたんに泣きやんだ。
 これはきっと、おれより怖いカボチャと言う奴がやってきて、今、子どもをポリポリと食べているにちがいない」
 鬼は震えあがって、暗い馬屋(うまや)に隠れる事にしました。
「どうか、恐ろしいカボチャに見つかりませんように」
 ところがその晩、馬をねらった馬泥棒が馬屋へ忍び込んで来たのです。

 馬泥棒は暗やみの中、馬と間違えて鬼の背中に乗りました。
 鬼はびっくりして、あわてて走り出しました。
(これはきっと、カボチャという化け物に違いない!)
  馬泥棒は、鬼の背中にしっかりとしがみつきました。
(これは元気な馬じゃ。逃がしてなるものか)
 ところがしばらくして自分が乗っているのは馬ではなくて鬼だと気がつき、馬泥棒はあわてて飛び降りると、そのまま小さな岩穴に転がり込みました。
「おや?」
 急に背中が軽くなったので、鬼は立ち止まって振りむきました。
 すると岩穴からウーンウーンと、けがをした馬泥棒のうなる声が聞こえます。
「うひゃー、岩穴で獲物を待つつもりだな! カボチャと言うのは、なんと恐ろしいやつだ!」
 鬼は飛びあがって、家へ逃げ帰りました。

 次の朝、鬼の所へ友だちの大ギツネがたずねてきました。
「鬼どん、どうした? 顔が真っ赤だぞ。・・・まあ、いつも赤いが」
「ああ、キツネどん。実はゆうべカボチャに飛びつかれて、もう少しでボリボリ食べられるところだったんだ。カボチャは岩穴にかくれて獲物を待っとるから、キツネどんも用心した方がいいぞ」
 すると大ギツネは、アハハと笑いました。
「鬼どんは、カボチャを知らねえんだな。あんなもん、おいらがやっつけてきてやるよ」

 大ギツネは岩穴につくと、そっとのぞいてみました。
 中では足をけがした馬泥棒が、ウンウンとうなっています。
「なんだ、ただの人間じゃねえか。どれ、からかってやろう」
 大ギツネは岩穴の入り口に大きなおしりをあてて、中を真っ暗にしました。
「うわっ、また鬼が来た!」
 馬泥棒は小刀を取り出すと、思いっきり大ギツネのおしりの穴をさしました。
「ぎえっ!」
 あまりの痛さに大ギツネは飛びあがり、そのまま死んでしまいました。

 間もなく、大ギツネを心配した鬼がやってきました。
「キ、キツネど〜ん」
 鬼は岩穴の入り口で死んだ大ギツネを見つけて、オイオイと泣きました。
「キツネどん。おれのために、カボチャと戦って死んだんだな。こうなったら、カボチャのいないところへ引越そう」
 鬼はそう言うと、山を出て行きました。

 しばらくすると馬泥棒が、そろりそろりと岩穴から出てきました。
 外には鬼ではなく、大ギツネが死んでいます。
「こりゃ、キツネにだまされたぞ!」
 馬泥棒は小刀で大ギツネの皮をはぎとると、大ギツネの皮を殿さまのお城へ持って行き、たくさんのごほうびをもらいました。

 こんな話があってから、栗田(くつた)のカボチャは鬼も怖がると言われ、縁起が良いと、たくさん作られるようになったのです。

おしまい

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