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 5月29日の日本民話
 
 
  
 わらしべの王子
 鹿児島県の民話 → 鹿児島県情報
 
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          | 朗読者 : エクゼムプラーロ |   むかしむかし、琉球(りゅうきゅう→沖縄)の那覇(なは)に、長栄(ちょうえい)という男の子と母親が二人で暮らしていました。長栄が七才になった時に母親は病気で死にましたが、その死ぬ少し前に、
 「長栄、これからわたしが言うことをよく聞いて、かならずやりなさい。
 いいですか、ほかに何もありませんが、天井にワラが三たばあります。
 わたしが死んで七日たったら、それをみそ屋に持って行って、みそと取りかえなさい。
 わたしは王さまの妃(きさき)でしたが、ある時、わずかのあやまちのために追い出されたのです。
 城を出る時に、あなたの父である王さまからいただいたのが、そのワラなのですよ」
 と、長栄に言い残しました。
 たった一人になった長栄は、三日間泣き続けましたが、四日目には涙をぬぐって、
 (もう、泣かないようにしよう)
 と、自分に言い聞かせました。
 そして母親が言い残した通り母親が死んでから七日後、ワラを三たば持ってみそ屋へ行きました。
 
 「ワラとみそを交換しろだと? ふざけるな!」
 みそ屋の主人は怒って長栄を追い返しましたが、長栄がしんぼう強く二日も三日も座り込んだので、みそ屋はとうとう、
 「全く。お前には負けたよ。そのワラとみそを交換してやろう」
 と、言って、ワラと引きかえにみそを三つくれました。
 長栄はそのみそを持って、今度はいかけ屋に行きました。
 いかけ屋とは、穴が開いたカマなど修理する人の事です。
 長栄がいかけ屋の前で一日中座り込んでいると、いかけ屋は、
 「お前の持っているみそを、売ってくれないか?」
 と、言ったのです。
 「このみそは売れない。でも、そこにあるカマと交換ならいいけど」
 「そうかい。それならどれでも、自分で好きなのを持って行きなさい」
 いかけ屋がそう言ったので、長栄はみそを渡して、ふちのかけ落ちたカマを選びました。
 そしてそのカマを持って、今度はかじ屋へ行きました。
 何も言わずに座り続ける長栄をかじ屋は無視していましたが、座り込んで二日目に、かじ屋は言いました。
 「あのな、いつまでもそこにいられると困るんだ。そのカマを買ってやるから、どこかへ行きな」
 「売ることは出来ない。でも、刀と交換ならいいけど」
 長栄はそう答えて、刃の部分だけで持つ部分のない刀をカマと交換してもらいました。
 
 その次の日、長栄はその刀を布にくるんで、唐船(からぶね→中国の船)をつないである浜へ行きました。
 そして昼寝をしていると泥棒がしのび寄って来て、そばにおいてあった刀を取ろうとしました。
 ところが泥棒が刀を取ろうとして手をのばすと、不思議な事に刀はヘビに変わってしまうので、どうしても盗む事が出来ません。
 この様子をじっと見ていた、唐船の船頭(せんどう)が、
 「おーい、そこで寝ているわらべ(→子ども)よ、その刀を持って船まで来てくれや」
 と、大声で呼びました。
 長栄が刀を持って船に行くと、船頭は目を光らせて言いました。
 「ヘビに変わるとは、珍しい刀だ。
 その刀を、わしにぜひ売ってくれ。
 お金なら、たっぷり出すぞ」
 「売ることは出来ない。でも、びょうぶと交換ならいいけど」
 長栄はそう答えて、刀の代わりにびょうぶをもらいました。
 
 さて、長栄は船頭からもらったびょうぶを持って、王さまの城に行きました。
 そして家来に、
 「今から、おもしろいものをごらんにいれます」
 と、言って、中庭に入り込むと、びょうぶを立ててそのかげで昼寝を始めました。
 すると間もなく、びょうぶにかいてあったウグイスがよい声でさえずり始めたのです。
 そしてその声につられたのか、たくさんの小鳥たちも集まって来て、ウグイスの声に合わせてさかんにさえずります。
 けらいたちはおどろいて、目を見張りました。
 小鳥たちの声を聞きつけて出て来た王さまは、これを見て長栄に言いました。
 「これ、その珍しいびょうぶを、わしに売ってはくれまいか」
 「売ることは出来ない。でも、二つの物となら、すぐにでも交換しますよ」
 「その二つの物とは、いったい何だ?」
 「はい、その二つの物とは、海の塩を全部と陸の水を全部です」
 王さまは長栄の答えを聞くと、バカな子どももいるものだなと思って、
 「よろしい。海の塩と陸の水をやるから、そのびょうぶをもらうぞ」
 そう言って、その場で海の塩と陸の水とを全部長栄の物とするという書き付けを家来につくらせて、長栄に渡しました。
 
 海の塩と陸の水が自分の物になった長栄は、井戸の水をくむ人からは、一おけにつき十銭(じゅっせん)をもらい、塩水をくむ人からは、同じように五銭もらうことにしました。
 井戸水をくんだり塩水をくんだりするたびに、いちいち十銭、五銭とお金を取られるのて、人々はすっかり困ってしまいました。
 「王さま。水をくむたびにお金を取られて困っています。どうか今までの様に、自由にくませてもらえないでしょうか」
 人々はそう言って王さまに願い出ましたが、けれども王さまはびょうぶと引き替えに長栄の物としてしまったので、どうすることも出来ません。
 (これは、まずい事になった。なんとかせねば)
 王さまは、長栄を呼び出しました。
 「お金は十分にあたえるから、水と塩を返すように」
 「いやです。水と塩は返しません!」
 長栄が断ると、王さまは困り切って、
 「そうか、それではやむをえぬ。戦をいたしても取り戻すが、それでもよいな?」
 と、おどかしました。
 けれども長栄は恐れることなく、王さまの顔をにらみながら言いました。
 「わたしは戦だって、恐れません。
 ですがこれだけは、王さまにおたずねしたいと思います。
 それはわたしの母親をわずかのあやまちで追い出したのは、いったいどこのどなただったかということです」
 「なに? わしがお前の母親を? ・・・もしや、もしやお前は!」
 その時、王さまは長栄が自分の子であることを知ったのです。
 「そうか、お前はわしの」
 
 その後、王さまは王の位を長栄にゆずって、水と塩とを返してもらったという事です。
 おしまい   
 
 
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