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 1月26日の日本民話
 
  
 小野道風とカエル
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 ※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
 
 投稿者 「天乃悠の朗読アート」   天乃悠の朗読アート
  むかしむかし、小野道風(おののとうふう)という、書道の達人がいました。その道風(とうふう)が、まだ書道の達人と呼ばれる前のお話しです。
 
 ある日、一生懸命に字を書いていた道風は、書きあげたばかりの紙をクシャクシャに丸めると、壁に向かって投げつけました。
 「駄目だ! これでは、駄目なんだ! なぜ書けない! ・・・ああ、わたしには才能がないのだろうか?」
 道風が壁に投げつけた字は、とても素晴らしい字でした。
 ですが道風は満足できず、それからは筆を持とうとはせずに、ただぼんやりと庭の方を見つめていました。
 
 そんな道風のところへ、仲の良い友だちが訪ねて来ました。
 「おや、道風さん。筆を投げ出したりして、一体どうしたというのですか?」
 道風は、悲しそうな顔で友だちに言いました。
 「わたしは、自分の字が書きたいのです」
 「自分の字とは、どういう事ですか?」
 「今まで書いてきた字は、自分の字ではありません。
 ただ、中国の先生が書いた字を真似しているだけです。
 そうではなく、わたしは自分の字を、日本人の字を書きたいのです。
 でもそれが、どうしても出来ないのです」
 「まあ、そんなに悩む事は無いですよ。
 あなたは勉強をしすぎて、疲れているのですよ。
 どうです?
 気晴らしに、散歩でもしてきたら」
 「・・・確かに。では、ちょっとそこまで、ぶらぶら歩いてきます」
 道風はかさを持って、外に出ました。
 
 外は、細かい雨が降っています。
 道を下って行くと、いつの間にか池のそばまで来ていました。
 その池には柳の木が生えていて、その柳の木の若葉が風にゆられながら池に影をうつしています。
 「ああ、この柳の様に、やさしく生き生きとした字が書けたらなあ」
 その時、柳の枝の下で、何かが動きました。
 「おやっ?」
 よく見ると、池のふちには一匹のカエルがいて、じっと枝を見上げています。
 どうやら柳の葉先にとまっている虫を、狙っているようです。
 「カエルは、あの虫を食べたいのか。しかし、あれほど離れていては無理だろう」
 カエルは柳の小枝目掛けて、ピョンと飛びました。
 でも道風の思った通り、カエルは小枝に届かずポチャンと池に落ちてしまいました。
 「やっぱり」
 でもカエルは、あきらめません。
 池から出てくると、小枝目掛けてまた飛びました。
 そして失敗して、またポチャンと池に落ちました。
 カエルはまた飛びましたが、今度も失敗です。
 道風は、カエルに大きなため息をつきました。
 「駄目な事は、何度やっても駄目なんだ。カエルも、・・・わたしも」
 しかしカエルは、何度失敗してもあきらめません。
 七度目、八度目、九度目、そして十度目。
 「あっ」
 とうとうカエルは、柳の小枝に飛びつきました。
 そして長い舌で、虫を捕まえたのです。
 それを見た道風は、カエルに教えられた気がしました。
 「あきらめては、駄目なんだ!
 自分の字を書く事は、日本人の字を書く事は、とても難しい事だ。
 だからと言って、あきらめては駄目なんだ。
 いくら時間がかかろうとも、辛抱強くがんばろう。
 あのカエルに、負けないように」
 こうして道風は再び筆を取ると、あきらめずに字の練習を続けました。
 それから何年も努力をして、ついに自分の字を、日本人の美しい字を書けるようになったのです。
 
 誰でも困難な事にぶつかると、あきらめようと考えます。
 でも、この道風やカエルの様にあきらめずに頑張れば、努力を続ければ、きっと困難な事を打ち破る事が出来るでしょう。
 おしまい   
 
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