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 9月9日の小話 
 歩いて行く 
   むかしむかし、大変けちん坊な親父がおりました。この親父が病気になり、いよいよ、命があぶないという時、子どもたちをまくらもとによびよせ、
 「お前たちに言っておくが、わしはお寺の寄付もたくさんしたのに、今だに極楽(ごくらく→天国)からは、何のおとさたもない。
 わしが死んだからといって、これ以上、むだな金を使ってはならぬ。
 必ず、金のかからない葬式をするんだぞ。
 よいな」
 と、みんなに念をおしました。
 子どもたちは、
 「それでは、遺言通りにいたしますが、棺おけは、こし(→棺おけを運ぶ、専用のみこし)に出しましょうか?」
 と、言うと、親父は、
 「いや、それは金がかかりすぎる」
 「では、牛車(ぎっしゃ→牛にひかせる荷車)で、運びましょうか?」
 「それも、金がかかる」
 「それでは、二人ぐらいに、かつがせましょうか?」
 「いや、それでは、二人もやとわねばならぬ。金がかかるからだめ」
 「では、いったい、どうしましょう?」
 すると、親父は、
 「えい、めんどうな。死んだら、おれが歩いて行こう」
 おしまい  
 
 
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