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 5月7日の小話
 
 かまが大事 
        
          | ♪おはなしをよんでもらう(html5) |  
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          | 朗読 : エクゼムプラーロ |  
   ある家に忍び込んだ泥棒が、台所からかまを盗んで逃げ出しました。それを見つけた亭主は、泥棒の後を追って、どこまでもどこまでも追いかけました。
 「全く、かまぐらいでしつこい奴だ」
 泥棒は、どこまでもどこまでも逃げ続け、ついには大阪から京都までやってきました。
 そして京の町で古道具屋を見つけると、
 「親父、言い値で良いからかまを買ってくれ! 急いでいるんだ!」
 と、言いました。
 「へい。では急いで値段をつけましょう」
 道具屋の主人がかまを受け取ると、追いかけてきた亭主が、
 「どろぼーう! どろぼーう!」
 と、大声で言いました。
 「しまった。もう追いつきやがったな!」
 泥棒は、あわてて逃げ出しました。
 驚いた道具屋の主人が、亭主に尋ねます。
 「いったい、これは、どうしたことで?」
 「いや、実は、かくかく、しかじかで、ついに大阪から京都まで後をつけてきました」
 わけを聞いた道具屋の主人は、あきれ顔で言いました。
 「やれ、やれ。なんとも気の長いお人だ。何も大阪からここまで追って来なくとも、その場で『泥棒!』と、叫べばよかったろうに」
 すると亭主は、大事そうにかまをなでながら言いました。
 「いや、いや。不注意(ふちゅうい)に声をかけたら、泥棒は大事なかまを放り出して逃げるだろう。それではこのかまが、割れてしまいます」
 おしまい  
 
 
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