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 6月21日の百物語
 
  
 三つ目の大入道
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  むかしむかし、京の都に、どんな事にも驚かないのが自慢の侍がいました。この侍はいつも、先祖から伝わる名刀を腰にさしています。
 
 ある晩の事、この侍が五条通(ごじょうどおり)を歩いていると、後ろから足音を忍ばせてついてくる者がいました。
 (怪しい気配。・・・化け物か)
 侍が振り返ると、そこにいたのは、まだ七つか八つの子どもでした。
 「なんだ。化け物かと思えば、ただの小僧ではないか。小僧、今頃どこへ行く?」
 すると、子どもは、
 「どこへ行こうと、おらの勝手だ」
 と、言いながら、いきなり三つ目の大入道に姿を変えました。
 「おのれ! やはり化け物であったか。覚悟いたせ!」
 侍は自慢の刀を抜くがはやいか、大入道に切りかかりました。
 すると大入道は空中に飛び上がって、そのまま煙の様に消えてしまいました。
 「はん。口ほどもない化け物だ。あんな奴なら、いくつ出てきても平気だ」
 侍が歩き出すと、今度は後ろからパタパタと履き物の音がして、美しい女の人が駆け寄ってきました。
 「お侍さま、お助けくださいまし。
 ただ今そこで大入道のお化けに出会い、命からがら逃げてまいりました。
 一人では怖くて、家に帰る事が出来ません。
 どうか途中まで、送っていただけないでしょうか?」
 すると侍は、女の人をひと目ながめて、
 (この気配は、人間の物ではない。さてはさっきの化け物が、仕返しに来たのだな)
 と、正体を見破りましたが、何食わぬ顔で言いました。
 「いいでしょう。どこへでも、送りましょう」
 
 しばらく歩いて、侍がたずねました。
 「ところでその大入道は、どんな奴でした?」
 すると女の人は立ち止まって、
 「それはそう、ちょうど、この様な姿でございましたよ!」
 と、いきなり三つ目の大入道になりました。
 けれど、すでに女の人の正体を見破っていた侍はあわてる事なく、
 「覚悟ー!」
 と、三つ目の大入道を力任せに切りつけました。
 ガチーン!
 確かな手ごたえがあり、三つ目の大入道を切った刀から火花が飛び散りました。
 「さあ、仕留めたぞ」
 ところがふと見ると、侍が切りつけたのは三つ目の大入道ではなく、道ばたの石どうろうでした。
 石どうろうを切りつけた為、自慢の刀は刃こぼれでボロボロです。
 「ああ、わしの名刀が!」
 侍はがっくりと肩を落とすと、とぼとぼと引き上げました。
 しかし三つ目の大人道も、この侍がよほど怖かったのか、それからは二度と現れる事はありませんでした。
 おしまい   
 
 
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