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7月31日の日本の昔話

幽霊の酒盛り

幽霊の酒盛り

 むかしむかし、あるところに、一軒(けん)のこっとう屋がありました。
 今日はあいにく主人夫婦が留守なので、おいっ子の忠兵衛(ちゅうべえ)が留守番をしています。
 そこへ、金持ちそうなお客がやってきました。

「ふむ、山水(さんすい)か。
 図柄が、ちと平凡じゃな。
 ふむ、書か。
 これはまた、下手くそな字じゃ。
 ・・・ああ、どいつもこいつも、ありきたりでつまらん」
 その時、お客の目が光り輝きました。
「むむっ、こいつは珍しい! 気に入ったぞ。主人、この掛け軸はいくらだ?」
 それは、女の幽霊が描かれた掛け軸でした。
 おじさんがただ同然で買ってきたガラクタだったので、二十文(→六百円ほど)ももらえば十分だと思って、忠兵衛はお客に指を二本出して見せました。
 するとお客は、
「なに、二十両(→百四十万円)? そいつは安い!」
と、大喜びです。
「えっ? 両? いや、あの、その・・・」
 目をパチクリさせている忠兵衛に、お客は財布を渡して言いました。
「今はあいにくと、持ち合わせがない。
 だから手つけ(→契約金)だけを、払っておこう。
 残りの金は明日持って来るから、誰にも売らないでくださいよ」
「へい、もちろんです!」
  忠兵衛はお客を見送ると、受け取った財布の中身を見てびっくりです。
「うひゃあ、すごい大金が入っているぞ! あのお客、本当に二十両で買うつもりだ!」
 おじさん夫婦の留守の間に思わぬ大金を手にした忠兵衛は、すっかりうれしくなって幽霊の掛け軸を相手に一人で酒盛りを始めました。

「いや、ゆかいゆかい。
 ちょっと店番をして、二十両か。
 笑いが止まらねえとは、この事だ。
 ・・・しかし二十両だと思って見てみると、この幽霊はなかなかの美人だな」
 そして忠兵衛は、掛け軸の幽霊にむかって言いました。
「お前さんのお陰で大金をかせがせてもらうのに、おれ一人で飲んでちゃ申し訳ねえな。
 おい、お前さん。
 ちょっと出て来て、おしゃく(→お酒をつぐこと)でもしてくれや」
 するとそのとたん、夏だというのに辺りがスウーッと冷たくなり、風もないのに明かりがパッと消えて、ふと気づくと目の前に見知らぬ女の人が立っていたのです。
「ん? ま、まさか、その顔は」
 忠兵衛が掛け軸を見ると、掛け軸はもぬけの空で、まっ白です。
「ぎゃあーー! で、出たあーー!」
 掛け軸の幽霊は美人とほめられたのがうれしくて、本当におしゃくをしに出てきたのです。
 初めは怖がっていた忠兵衛も、相手が美人の幽霊なので、そのうちにすっかりいい気分になりました。
 おまけにこの幽霊の、お酒の強い事。
 忠兵衛が歌えば、それに合わせて幽霊が踊ります。
 二人は夜通し、飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎをしました。

 次の朝、目を覚ました忠兵衛は、ふと幽霊の掛け軸を見てびっくり。
 何と掛け軸の絵の幽霊が、酒に酔って寝ているではありませんか。
「ね、寝てる!」
 忠兵衛は寝ている幽霊を見ながら、泣きそうな顔でつぶやきました。
「う〜ん、困ったなあ。早く起きてもらわないと、二十両がパーになっちまうよう」

おしまい

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