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 5月25日の日本の昔話
 
 
  
 ネコの大芝居
 
 ※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
 
 投稿者 ナレーター熊崎友香のぐっすりおやすみ朗読
 
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 投稿者 「元局アナ佐藤くみこの「優しいおやすみ朗読」
 
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 制作 : 妖精が導くおやすみ朗読チャンネル
 
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 投稿者 「清水美和子の朗読ハウス」  清水美和子の朗読ハウス
 
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 投稿者 あんみつこの読み聞かせ部屋
  むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。二人は若い頃から一生懸命働いてきましたが、ちっとも暮らしが楽になりません。
 それでも不平も言わずに、
 「毎日元気の働けるのは、神さまのおかげです」
 と、神さまに感謝しながら暮らしていました。
 
 ある日の事、おじいさんが言いました。
 「わしらにも、子どもがあるとよかったのだが」
 「本当ですね。今さら子どもは無理ですけど、せめてネコの子でも飼いたいですね」
 するとその日の夕方、どこからともなく一匹のぶちネコが迷い込んできたのです。
 「これはきっと、神さまがさずけてくださったにちがいない」
 「このネコを、今日からわたしたちの子どもにしましょう」
 おじいさんとおばあさんはネコにぶちという名前をつけて、それはそれは大事に育てました。
 ぶちもすっかり二人になついて、どこへでもついてきてニャアニャアとあまえます。
 二人はぶちがかわいくて、おいしい物があると自分たちが食べないでも、ぶちに食べさせます。
 こうして十三年もたつうちに、小さかったぶちもすっかり年寄りになりました。
 かしこいぶちは自分でしょうじの開け閉めも出来れば、留守番だって出来ますが、年を取ったために動きがにぶくて、庭で遊んでいる小鳥にまでからかわれるしまつです。
 ところがぶちよりも、おじいさんとおばあさんの方がもっと体が弱ってきて、畑仕事や川へ洗たくに行くのもしんどくなってきました。
 
 ある晩、おばあさんが言いました。
 「おじいさん、わたしたちもずいぶん年をとったけど、ぶちも人間ならわたしたち以上の年寄りです。
 これでは、どちらが先に死ぬかわかりません。
 うまいぐあいに、ぶちが先に死んでくれたらいいですが、わたしたちが先に死んだらどうしましょう?」
 「そうだな。出来る事なら、みんなで一緒にあの世へ行けたらうれしいのに」
 ぶちは、いろりのふちでいねむりをしながら、二人の話を聞くともなしに聞いていましたが、とつぜん体を起こすと二人の間に座り、前足をきちんとそろえて言いました。
 「おら、長い間、二人にかわいがってもらいましたが、そろそろおひまをいただきたい」
 ネコがいきなり口をきいたので、おじいさんもおばあさんもビックリして顔を見合わせます。
 それでもおばあさんが、ぶちに言いました。
 「まさか、お前に人間の言葉がわかるとは思わなかったので、とんだ話を聞かせてしまった。わたしたちはまだまだ元気だから、安心してここにいてくれ」
 おじいさんも、ぶちの背中をなでながら、
 「そうさ。かわいいお前を残して、誰が死ぬもんか。死ぬ時はおばあさんもお前も一緒じゃよ」
 と、言いました。
 すると、ぶちが言いました。
 「二人の気持ちは、おら、涙が出るほどうれしいです。
 でもやっぱり、これ以上、心配をかけるわけにはいきません。
 ところで二人とも、芝居(しばい)が大好きでしたね。
 かわいがってもらったお礼に、芝居を見せたいと思いますが、どんな芝居がいいですか?」
 「芝居なんかいいから、このまま一緒にいてくれ」
 「いいえ、おらも、そろそろ仲間のところへ戻りますから」
 そう言われると、おじいさんもおばあさんも引き止める事は出来ませんでした。
 「さあ、どんな芝居を見たいか、言ってください」
 「そうさな・・・」
 何しろ芝居を見たのは若い頃で、それも忠臣蔵(ちゅうしんぐら)という芝居を一回きりです。
 「そうだ、忠臣蔵が見たい」
 二人は、同時に言いました。
 「それでは、忠臣蔵を始めから終わりまで、たっぷり見せてあげましょう」
 ぶちは、長いひげをピンと伸ばして、
 「では、本当に長い間お世話なりました。来月三日のお昼、裏山の空き地へ来てください」
 と、言うと、おばあさんにつけてもらった首の鈴(すず)を鳴らしながら、家を出て行きました。
 
 次の日からは、ぶちのいないさみしい暮らしです。
 「ああ、ぶちに会いたい」
 「早く、三日が来ないかな」
 おじいさんもおばあさんも、三日が来るのをゆびおり数え、やがて三日がやってきました。
 おじいさんとおばあさんは、お昼になるのを待ちかねて裏山へのぼって行きます。
 でも、空き地には大きな石が転がっているだけで、誰もいません。
 「ネコは年を取ると化けるというが、こりゃ、ぶちのやつにだまされたのかな?」
 「いいえ、うちのぶちは、そんなネコじゃありません。きっとやってきます」
 二人で話し合っていると、近くの草むらでチリリンと鈴の音がしました。
 「それ来た。あの鈴の音は、ぶちの物に違いない」
 そう言っておばあさんが立ち上がると、草の中からヒョイとぶちが現れました。
 「おじいさん、おばあさん、よく来てくれました。さあ、そこの石に座ってゆっくり見物していってください」
 ぶちはていねいに頭を下げると、草の中に姿を消しました。
 そのとたん、♪チョンという拍子木(ひょうしぎ)の音がひびいて、草原の中に立派な舞台(ぶたい)が現れました。
 後ろには、白い幕(まく)もはってあります。
 「こりゃすごい。本物の舞台だ!」
 二人がびっくりしていると、さっと幕が開いて役者が次々と舞台へ出てきました。
 どの役者もきれいな衣装(いしょう)をつけていて、後ろには三味線(しゃみせん)をひく人や歌をうたう人がずらりと並んでいます。
 やがて、芝居(しばい)が始まりました。
 どの役者も実に芝居が上手で、二人はただもう夢中で舞台をながめました。
 「うまいなあ」
 「なんてきれいだ」
 幕が開いては閉まり、閉まっては開き、忠臣蔵(ちゅうしんぐら)の長い芝居が終わった時には、まるで夢の中にいる気分です。
 「よかったね。おじいさん」
 「ああ、こんな立派な芝居を見るのは、生まれて初めてじゃ」
 二人がほっとして、もう一度前を見たら、舞台はあとかたもなく消えていて、もとの草原に変わっていました。
 「ニャアー」
 その時、どこかでネコの鳴く声がしました。
 でもぶちは、それっきり二度と姿を見せなかったそうです。
 おしまい   
 
 
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