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12月13日の小話

初めてのこたつ
  むかし、大そう山ぶかい村にくらしている男たちが、いくにんかで、江戸けんぶつに出かけたときのことです。
   冬のことなので、宿屋(やどや →詳細)のざしきには、ほりごたつ(床をくりぬいてつくった、こたつ(→詳細))がつくってありました。
  「おさむうございますねえ。さあ、どうぞ、おこたにあたってください」
   やどの女のひとは、そういって、だいどころのほうにもどっていきました。
   男たちはたがいに、
  「おまえ、先に入れ」
  「おまえこそ、先に入れ」
  と、ゆずりあって、もじもじしていました。
   じつをいうと、男たちの村には、こたつがなかったので、だれも、こたつのはいりかたをしらないのです。
  「まあ、ここは、しょうやさんからどうぞ」
  と、いうことになりました。
   しょうやさんも、こたつに入るのは初めてで、入りかたをしりません。
   でも、しょうやといえば、村長です。
   まさか、しらないとはいません。
  (風呂にはいるようなもんじゃろ)
  「それではみなさん、おさきにごめん」
   しょうやさんは、着物をぬぐと、ふんどしひとつで、ほりごたつにもぐりこみました。
   それからおもむろに、こたつの中をひとまわりすると、体中がポカポカしてきました。
  「あー、いいこたつだった」
   しょうやさんは、こたつからはいだすと、あせをぬぐって、着物をきこみました。
  「なるほど。こたつってものは、はだかではいるのか」
   つれのみんなは、しょうやさんのまねをして、じゅんぐりに、こたつに入っては、
  「ほんとに、けっこうな。こたつで」
  と、いったそうです。
おしまい