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3月21日の世界の昔話
  
  
  
  タールぼうや
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 むかしむかし、ある森に、イタズラ好きのウサギがいました。
 そんなイタズラウサギをなんとかつかまえようと、キツネが考えていました。
  「なにかいい方法がないかな。・・・そうだ! いいことがあるぞ!」
 よいアイデアを思いついたキツネは、コールタール(→石炭から取れる、ネバネバしたもの)に松ヤニをたっぷりまぜると、それで人形を作って、ウサギがよく通る道ばたにポンと立てました。
 それから、草むらにかくれたのです。
 まもなく、ウサギがやってきました。
 ウサギは人形を見つけていいました。
  「おはよう、今日はいい天気だね」
  「・・・・・・」
 もちろん、人形は何もいいません。
  「おい、だまっているとはなまいきだぞ!」
  「・・・・・・」
 人形は、やっぱり何もいいません。
  「返事しないと、一発、くらわすぞ!」
  「・・・・・・」
 それでも、だまっている人形に腹をたてたウサギは、バシンと、人形の顔をたたきました。
 すると、
  「あっ!」
 ウサギの手は、グチャッとコールタールの人形にくっつきました。
  「おい、もう一度ひっぱたかれるまえに、おれさまの手をはなしたらどうだ!」
 カンカンになったウサギは、もう片方の手で、また人形の顔をバシン。
 その手も、グチャッとひっつきました。
  「こいつめ!」
 いっそうおこったウサギは、両足で人形をけとばしました。
 両足もグチャッ。
  「これでもくらえ!」
 つぎに、頭をドンとうちつけました。
 頭もグチャッ。
 とうとう体じゅうが、ベッタリとコールタールの人形にくっついてしまいました。
 動こうとしても、動けません。
 それを見ていたキツネは、草むらから、わらいをこらえながら出てきました。
  「おやおや、ウサギくん。なんともたいへんなかっこうだねえ。さんざんいばっていたおまえさんも、これでおしまいというわけさ。どれ、かれ草をつんで火をつけて、ウサギのまるやきをいただこうとするかな」
 それを聞いたウサギは、とてもなさけない声でいいました。
  「ぼくは悪いウサギです。殺されてもシカたありません。キツネさん。どうぞ、火をつけてぼくをまるやきにしてください。・・・でも、ひとつだけおねがいです。野バラのしげみにだけは、入れないでください」
  「いや、火をつけるのはめんどうだからやめた。首つりにしてやるよ」
  「どうぞ、首つりにしてください。でも、野バラのしげみにだけは、入れないでください」
  「いや、首つりは、ひもがないからやめた。川にしずめてやるよ」
  「どうぞ、川にしずめてください。でも、野バラのしげみにだけは、入れないでください」
  「いや、このへんには川がない。川にしずめるのはやめた。いっそ、皮をひんむいてやる」
  「どうぞ、皮をひんむいてください。でも、野バラのしげみにだけは、入れないでください」
  「・・・そうか、野バラのしげみにだけは、入れてほしくないのか」
 キツネは、ウサギのうしろ足をもってぶらさげると、「エイッ!」と、野バラのしげみめがけてウサギを力いっぱいなげつけました。
  「どうだウサギめ、まいったか」
 キツネは満足そうに、野バラのしげみを見ていました。
 すると、とつぜん、
  「ははーん。まぬけなキツネ」
 遠くの丘で、ウサギがよんでいるではありませんか。
  「まさか!」
 ビックリするキツネに、ウサギはとくいそうにいいました。
  「おれさまが、野バラのしげみの中で生まれたのをわすれたのかい? 野バラとおれさまは親友同士で、野バラがおれを助けてくれたのさ」
   ウサギはそういうと、ピョンピョンとはねて、どこかへいってしまいました。
おしまい