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 第248話
 
  
 オオカミになった弟
 アメリカの昔話 → アメリカの国情報
  むかしむかし、静かな森の中で、インディアンの一家が暮らしていました。お父さんとお母さん、そして子どもが三人の五人家族です。
 ある日、お父さんとお母さんは重い病気にかかってしまいました。
 お父さんは家族を呼ぶと、こう言いました。
 「お前たちを残していくのはつらいが、これは仕方がない。
 さて、よく聞いておくれ。
 上の二人はもう大きいから心配ないが、末の男の子はまだ小さい。
 どうか上の二人は末の子を見捨てないで、ちゃんとめんどうをみてやってほしい。
 いいね、頼んだよ」
 「はい。ちゃんとめんどうをみます」
 上の息子と二番目の娘はお父さんの手を固く握りしめると、しっかりと返事をしました。
 それを見たお父さんとお母さんは、安心して息をひきとりました。
 
 残された三人はそれから仲良く暮らしましたが、冬が過ぎて暖かい春がやって来ると、上の息子は妹に言いました。
 「ちょっと、町へ出稼ぎに行ってくるよ。しばらくの間、弟のめんどうをみていてくれ」
 「うん。でも、すぐに帰って来てね。
 お父さんとお母さんがなくなる時に、二人で弟のめんどうをみると約束したんだから」
 「わかってるよ」
 上の息子は家を出て行くと、それっきり帰って来ませんでした。
 
 一年が過ぎて、また次の春が来ました。
 娘は、小さな弟に言いました。
 「食べ物をたくさん用意したから、お腹が空いたら食べなさい。
 わたしは、町へ兄さんを探しに行ってくるわ」
 娘が町へ行ってみると、兄さんは町で結婚して幸せに暮らしていました。
 そして娘も町で好きな人が出来て、町で結婚して暮らしました。
 
 一人残された小さな弟は、食べる物がなくなると外へ出て、木の実や魚をとって食べました。
 やがて、寒い冬になりました。
 お腹がペコペコになった小さな弟は、寒さに震えながら森の中を歩き回っているうちに、オオカミの住むほら穴にたどりつきました。
 ほら穴では、子どものオオカミが体を寄せ合って眠っていました。
 疲れ切っていた小さな弟は、子どものオオカミたちと一緒に寝てしまいました。
 しばらくして、小さな弟がふと目を覚ますと、母オオカミがやさしい目で小さな弟を見つめていました。
 
 それから冬が過ぎて、また春がやってきました。
 上の息子と二番目の娘は、二人で小さな弟の様子を見に行きました。
 「あの子、どうしているかしら?」
 「さあ、たぶん死んでしまったんじゃないかな?」
 「そうね」
 二人は住んでいた家に行ってみましたが、弟の姿はありません。
 そこであきらめて町に帰ろうとすると、森の中から突然、オオカミによく似たけものの様な男の子が飛び出してきました。
 「あっ、あの子だわ!」
 「本当だ! 生きていたんだ!」
 二人が叫ぶと、小さな弟は、
 「ウォーーン!」
 と、オオカミにそっくりな鳴き声をあげて、森の奥に消えてしまいました。
 そしてそれっきり、姿を現しませんでした。
 おしまい         
 
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