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 11月20日の日本民話 2
 
  
 相撲取り人形
 鳥取県の民話 → 鳥取県の情報
  むかしむかし、因幡の国(いなばのくに→鳥取県)に、作野屋というお金持ちの屋敷がありました。
 ある晩の事、この屋敷に五人の強盗がやって来て、主人以外をなわでしばりあげたのです。
 「さあ主人、金のある所へ案内してもらおうか」
 強盗たちは主人に刀を突きつけて、主人を土蔵(どぞう)の前に連れて行きました。
 主人は仕方なく、いつもふところに入れているカギで土蔵の扉を開けました。
 「よし、お前はここで待っていろ。逃げたりしたら、一家皆殺しだからな!」
 強盗はそう言うと、次々と土蔵の中へ入って行きました。
 
 土蔵の中には小判のつまった箱が、いくつも積んであります。
 「さすがは、作野屋の土蔵だ」
 「ああ、ずいぶんと貯め込んでいやがる」
 「おれたちに、盗られる為にな」
 強盗たちは、小判のつまった箱を運び出そうとしました。
 するとその時、土蔵の中に大声が響き渡りました。
 「待て!」
 強盗たちが振り返ると、目の前に仁王の様な怖い顔の相撲取りが立っていたのです。
 「お前たち、すぐにその箱を元に戻せ! さもないと、ひねり潰すぞ!」
 相撲取りはそう言うと、丸太の様な腕をブンブンと振り回しました。
 「ふざけるな! いくら相撲取りでも、たった一人で勝てると思っているのか!」
 強盗の一人が、刀を抜いて斬りかかりました。
 しかし相撲取りは刀を手で払いのけると、強盗の体を軽々と持ち上げて力一杯投げつけました。
 「どすこい!」
 投げつけられた強盗は、土蔵の壁に頭を打ち付けて気絶しました。
 「ま、待ってくれ。 箱を元に戻すから!」
 とてもかなわないと思ったほかの強盗たちは、あわてて小判の箱を元の場所に置くと、土蔵の外へ飛び出して一目散に逃げて行きました。
 
 「みんな、喜んでくれ。相撲取りが現れて、強盗たちを追い返してくれたぞ!」
 主人はしばられている者たちの縄をほどきながら、土蔵の中の出来事を話しました。
 「どこの相撲取りかは知らないが、とりかく礼を言わないと」
 屋敷のみんなが土蔵にかけつけると、中には気を失った強盗が一人倒れているだけで、他には誰もいません。
 「あの相撲取りは、どこへ行ったのだ?」
 とにかく、その強盗が逃げない様に縛り上げるとと、屋敷のみんなは土蔵の中をあちこち探してみました。
 すると土蔵のすみに、木で作った相撲取り人形が転がっていたのです。
 「もしかして、この相撲取りが土蔵を守ってくれたのか?」
 「まさか、木の人形だぞ」
 「しかし、この相撲取り。木の人形なのに、汗をかいているぞ」
 「ほ、本当だ」
 不思議な事に木の人形は、全身にびっしょりと汗をかいていたのです。
 「やはり、この人形が大男になって助けてくれたのだ」
 主人が言うと、おばあさんが思い出したように言いました。
 「そう言えば先代の頃、前の土蔵が火事で焼けた時に不思議な相撲取りが現れて、土蔵の中の物を外に運び出してくれたそうな」
 「するとこの人形は、二度も土蔵を守ってくれたのか」
 
 主人は相撲取り人形の為に社(やしろ)を作り、その中へ人形を祭って毎日拝むようにしたということです。
 おしまい   
 
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