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第 300話

弘法大師とあまのじゃく

弘法大師とあまのじゃく 弘法話
愛媛県・周桑郡の民話愛媛県の情報

日本語 ・日本語&中国語

 むかしむかし、旅の途中の弘法大師が伊予(いよ)の丹原(たんばら)というところを通りかかると、深い山の中に一本の大きな楠(くす)の木が立っていました。
「おおっ、これは見事な楠の木じゃ」
 大師はその楠の木に感動して、その幹(みき)に地蔵尊(じぞうそん)を彫り始めました。
 大師は真夜中になっても熱心に彫り続け、やがて地蔵尊の姿が幹に浮かび上ってきたころ、どこからか人をバカにした声が聞こえてきました。
「あはははは。いくら偉い大師でも、たった一晩で彫りあげるのは無理じゃ」
 大師が見あげると木の枝に一匹のあまのじゃくがいて、にやにや笑いながら大師を見下ろしています。
「・・・・・・」
 大師は何も言わず、ただ黙々とノミを動かし続けました。

 さて、夜明けが近くなり、地蔵尊完成まで、あと左耳を残すだけとなったときです。
「コケコッコー!」
 どこからか、一番鶏の鳴き声が聞こえてきたではありませんか。
「なんと、夜が明けてしまったか。残念じゃ、本当に残念じゃ」
 大師は地蔵尊を彫るのをあきらめて、その場を立ち去りました。
 でも実は、あの1番鶏の鳴き声は、あまのじゃくの物真似だったのです。

 しばらくして、その事に気がついた大師は、あまのじゃくに言いました。
「あまのじゃくよ。
 お前は神通力(じんつうりき)を持つと聞くが、一晩で岩山に百の穴を掘れるかな?
 いや、鬼や天狗ならともかく、あまのじゃくごときの未熟な神通力では無理だろうな。
 あはははは」
 これを聞いたあまのじゃくは、腹を立てて言いました。
「おれが未熟だと! よし、それなら見ておれ」
 あまのじゃくはそう言うと岩山に張り付いて、ものすごい勢いで穴を掘り始めたのです。
「ほう、これはなかなかやりおるわ」
 あまのじゃくは意外にも大師が感心するほどに頑張り、とうとう夜明けまでに九十九の穴を掘ってしまいました。
 そしていよいよ、最後の穴を掘り始めたその時、
「コケコッコー!」
 朝を告げる一番鶏の声がひびきわたったのです。
「ちくしょう! もう少しだったのに!」
 あまのじゃくは地団駄をふんでくやしがると、どこかへ消えてしまいました。

 実はさっきの一番鶏は大師の物真似で、あまのじゃくの物真似よりも上手だったそうです。

おしまい

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