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第 284話

白蛇の精

白蛇の精
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 むかしむかし、とても芝居の上手な旅の役者がいました。

 ある日、故郷(こきょう)から手紙が届きました。
 役者が手紙を開いてみると、
《母が病気。すぐ戻るように》
と、書いてあります。
 お母さんを心から大切に思っている役者は、すぐに故郷へ帰ることにしました。
 役者は走って走って、峠の下の茶屋にたどりつきました。
 ここで腹ごしらえと休憩をして、さあ行こうとしたときに茶屋の主人が言いました。
「この先は暗い山道で、そろそろ日も暮れて真暗闇になります。
 その上、恐ろしい化物が出るとの噂もあります。
 今夜はここに泊まって、明日の朝に行かれてはいかがでしょう」
「ありがとうございます。ですが」
 役者はていねいにお礼を言ってわけを話し、茶屋を出て行きました。

 山道は茶屋の主人の言った通り、足元が見えないくらいの暗闇に包まれてしまいました。
 役者は手さぐりで少しずつ進みましたが、これではいつ足を踏みはずすかわかりません。
「ああ、困った」
 役者が、ため息をついたときです。
 バァッといきなり青い炎が燃えたかと思うと、あたりが急に明るくなりました。
 そして目の前の古い大きな木が重なり合う中に、小さな家が見えました。
 かたむいた屋根には深い緑の苔(こけ)がびっしりと生えていて、扉は青いかびに染まっています。
 それにそのまわりには人の骨か動物の骨かはわかりませんが、たくさんの骨が散らばっていたのです。
(もしや、これが茶屋の主人が言っていた・・・)
 役者がじっと家を見つめていると、中から一人のおじいさんが出て来ました。
 おじいさんの頭は真白、顔も真白、着物も真白です。
 ただ目と口だけが、青く光っていました。
「わしは白蛇の精、千年は生きておる蛇の魂(たましい)じゃ。
 実はお前の手紙、あれはわしが書いたうその手紙じゃ。
 聞くところによると、お前は化けるのが上手な役者だそうじゃな。
 わしも化けるのには、多少の自信がある。
 そこでわしとどちらが化かすのがうまいか勝負をしたくて、ここへ呼んだのじゃ」
 役者は心底びっくりしましたが、演技で落ちついたふりをすると言いました。
「いいでしょう。では、まずあなたから化けて見せてください」
「うむ。では」
 白蛇の精は青い目をギラリと光らせると、おまじないの言葉をとなえました。
 するとみるみるうちに、あたり一面に黒い雲が現れて、その中から百とも千とも数えきれないくらいたくさんの神さまや仏さまや鬼などが姿を現しました。
 二人のまわりは、金色に光る神さま、象にまたがる神さま、まっ赤な炎をあやつる鬼、大きな刃を振りかざしながら踊る鬼たちでいっぱいです。
 次に白蛇の精は、ふっと息を吹きました。
 そのとたんに黒い雲もたくさんの神さまや鬼たちも消えて、あたり一面がキラキラとまるで宝石をばらまいたようにまぶしく輝き出したのです。
「どうじゃ。このわしに勝てるかな?」
 白蛇の精は、自信満々に役者の顔をのぞき込みました。
 すると役者は道具箱を開けながら、白蛇の精を横目で見て言いました。
「確かに、お見事です。
 さてこの私は、いったい何に化けてみせましょうか?
 あなたのようなお方に、怖いものなどはないと思いますが、もしお聞かせ願えればありがたいですね。
 勝負とはいえ、相手の苦しむ様子を見るのはいいものではありませんからね」
「なるほど。
 わしは怖いといったら、なめくじが怖い。
 あれを見ると震えがとまらず、たちまち立ちあがれなくなるのじゃ。
 してお前は、何が怖い?」
「わたしの怖いものといったら、大判小判です。
 あれがたくさんあると、もう怖くて死んでしまいたくなります」
 役者はそう言ったかと思うと、道具箱からうす茶色の布を取り出してかぶりました。
 そして、ぬるぬると体をくねらせて、白蛇の精に抱きつきました。
 すると白蛇の精は、青い目をまっ赤にして叫びました。
「うぎゃーー! なめくじの化け物じゃー!」
 そして泣きながら、住みかへと逃げ帰ったのです。
「わはははは。うまくいったわ」
 役者は笑うと、うす茶色の布をかぶったまま朝を迎えて山を下りて行きました。
 家に帰るとお母さんはもちろん元気で、役者が旅での話をすると楽しそうに笑いました。

 さて、その日の真夜中のことです。
 急に家がガタガタとゆれ出すと、壁を突き破って一匹の大きな白い蛇が入って来たのです。
 そして役者を見ると、青い目をギラギラ光らせて、
「夕べは、よくもやってくれたな。お前もも、恐ろしい目に合わせてやる。それ! お前が怖がっていた小判だ!」
と、大判小判を滝のように降らせて、帰って行ったそうです。

おしまい

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