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 第 114話
 
  
 鳥になったかさ屋
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  むかしむかし、河内の国(かわちのくに→大阪東部)に、かさ屋のまさやんという若者が暮らしていました。天気のよい日に道具を外に出して、空を飛ぶ鳥を見上げながら仕事をするのが、まさやんのたった一つの楽しみです。
 「あんなふうに空を飛べたら、気持ちええやろなー」
 
 そんなある日の事、かさが一つ風に飛ばされてしまいました。
 かさが一本でもなくなれば、その日はご飯が食べられません。
 「うわっ、待てえ!」
 飛んでいくかさを追いかけ、
 「とっ!」
 と、かさに飛びつくと、まさやんの体は一瞬、空中に浮きました。
 でも、すぐに地面へ落ちてしまいました。
 「いたたたっ!」
 打ちつけたお尻をなでながら、しばらくポカンと空を見上げていたまさやんは、ふと思いついたのです。
 「そうや、これや!」
 
 それから、三日がたちました。
 まさやんは屋根の上に立つと、大きなかさを広げました。
 (ようし、これから空を飛んでやる)
 まさやんはかさを広げたまま、屋根の上から飛び降りました。
 ひゅーーーっ、どすん!
 かさは途中で折れて、まさやんは地面へまっさかさまです。
 「おー、いてててててっ!」
 見事に失敗ですが、まさやんはあきらめません。
 「かさが大きすぎてもだめだな。次は二つにしてみよう」
 
 それから、また三日がたちました。
 二つのかさを一つにくっつけたまさやんは、またかさを広げて屋根から飛び降りました。
 ひゅーーーっ、どすん!
 かさはまたもや途中で折れて、まさやんは地面へまっさかさまです。
 「おー、いてててててっ! 二本でもだめなら、次は三本だ! もっと軽くて、もっと丈夫に」
 
 こうしてまさやんは商売のかさはりを放り出して、空飛ぶかさ作りを続けました。
 仕事をしないのでご飯が食べられませんが、水をガブガブ飲んで一日中がんばりました。
 
 それから、何日目かの朝の事です。
 「でけた! これなら大丈夫。鳥のように空を飛べるぞ!」
 空飛ぶかさをつくりあげたまさやんは、今度は家の屋根ではなく、村で一番背の高いの杉の木のてっぺんに登りました。
 もし今度も失敗なら、まさやんの命はないでしょう。
 でもまさやんは迷うことなく、かさを広げて杉の木のてっぺんから飛び降りました。
 するとかさは途中で折れることなく、まさやんをぶら下げたまま大空を飛んだのです。
 「やったー! 飛んだぞ! おれは鳥になったんだー!」
 まさやんが空を飛んだうわさは村中に広まり、やがて殿さまの耳にも届きました。
 
 数日後、殿さまの家来が、まさやんの家にやって来ました。
 「実は殿さまが、まさどのの空飛ぶかさをとても気に入り、侍大将としてまさどのを城に迎えたいとおっしゃっています」
 「侍大将に? このおれが?!」
 まさやんは、自分の耳をうたがいました。
 侍大将とは、大変な出世です。
 「それはもう、喜んでお受けいたします!」
 大喜びするまさやんに、家来が言いました。
 「では明日の朝、空飛ぶかさを持って城へ来てください。殿さまは空飛ぶかさを大量に作って、敵の城を空からせめるおつもりです。これがうまくいけば、さらなる出世も出来るでしょう」
 「えっ? ・・・・・・・」
 
 家来が帰った後、まさやんはとても悩みました。
 「これは、えらい事になったなあ。
 おれの作ったかさが、いくさの道具にされるなんて。
 おれは、いくさが大嫌いなんだ。
 おれがつくったかさで、大勢の人が死ぬなんて嫌だ!
 ・・・いっそ、このかさをこわしてしまおうか。
 いやいや、そんな事をしたら殿さまのいいつけにそむいたと、殿さまに殺されてしまうわ。
 なら、どうすれば・・・」
 一晩中悩んだまさやんは、朝早くに空飛ぶかさを持って家を出ると、杉の木のてっぺんに登りました。
 「もう、これしか方法はない。どこか遠くへ、逃げるしか」
 まさやんは空飛ぶかさを広げて、杉の木のてっぺんから飛び出しました。
 風に乗ったまさやんは、どこまでもどこまでも飛んでいきました。
 
 その後、まさやんの姿を見た人はいなかったそうです。
 おしまい   
 
 
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