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 第 97話
 
  
 テングと旅をした男
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  むかしむかし、比叡山(ひえいざん)にあるお寺の修理に立ちあっていた木内兵左衛門(きのうちひょうざえもん)という若い侍(さむらい)が、突然行方不明になりました。兵左衛門(ひょうざえもん)はお酒とばくちが好きだったので、
 「どうせ、また勝手に山をおりて、町にでも行ったんだろう」
 人々はそう思って、あまり気にしませんでした。
 ところが、兵左衛門がはいていたぞうりが、お寺の玄関先(げんかんさき)と内庭(うちにわ)に片方ずつ落ちていたのです。
 「これは、おかしいぞ」
 さらに探してみると、ぐにゃりとへし曲げられた刀と、ずたずたに引き裂かれた帯が見つかったので、大変な騒ぎになりました。
 「兵左衛門は玄関から出ようとして、誰かに引きずられて内庭を抜け、山の中へ連れて行かれたんだ」
 「しかし、刀をへし曲げるなんて、人間技とは思えない。まさか、テングにさらわれたのではあるまいな」
 もう日は暮れて、あたりはまっ暗です。
 工事の仲間も一緒に火をたいて兵左衛門の事を心配していると、大工(だいく)の若者が、
 「おい、人の声がするぞ」
 と、暗やみの中へ走って行きました。
 みんなも行ってみると、お堂の屋根の上で羽のある者が立っていて、下へおろしてくれと言っています。
 よく見るとそれは行方不明になっていた兵左衛門で、羽に見えたのは破れた雨傘(あまがさ)でした。
 みんながはしごをかけて屋根から兵左衛門をおろすと、兵左衛門はとても疲れた顔で今までの話を始めました。
 兵左衛門の話によると、夕方に名前を呼ばれたので玄関まで出て行くと、黒い衣を着た若いお坊さんが立っていたというのです。
 お坊さんは顔が赤く、みだれた長い髪の毛を地面までたらしていました。
 そして、
 「ちょっと、そこまで来てくれぬか」
 と、言って兵左衛門の手を強い力でつかみ、内庭へと引っ張って行ったのです。
 兵左衛門は刀に手をかけましたが、すぐにうばい取られて曲げられてしまいました。
 それから兵左衛門を軽々とかつぎあげると、お堂の屋根の上へ放り投げたというのです。
 屋根の上には、赤い衣を着た鼻の高い大きなテングがいて、
 「いいところへ、連れて行ってやる」
 と、足の下にある丸いお盆の様な物に乗る様に言いました。
 兵左衛門が足をかけると、そのお盆はふわりと宙に浮かび上がり、兵左衛門はテングと一緒にテングの仲間たちが住む山々をめぐりました。
 そしてたったいま、お堂の屋根の上に戻って来たというのでした。
 「すまんが、酒が飲みたい」
 兵左衛門が言うので宿へ戻ってお酒をやると、兵左衛門はどんぶりで五杯もたて続けにお酒を飲み干して、そのまま四日間も眠り続けたという事です。
 おしまい   
 
 
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