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3月11日の小話

盲目

盲目

 小雪がちらちらと舞う、寒い冬の夕方の事です。
 ご隠居さんが銭湯へ行く為に橋を渡ろうとすると、橋の上に一人の乞食(こじき)がいて、しょんぼりと頭を下げているではありませんか。
 おまけに乞食のそばには、
《盲目(もうもく→目の見えない事)》
と、書かれた札を首から下げた犬が、寄り添うように座っていました。
「盲目の乞食とは、何とも可愛そうな事よ」
 あわれな乞食の姿に心を痛めたご隠居さんは、財布から小銭を出して乞食の前に置いてあるかごの中へ投げ入れてやりました。
「お前さん。気を落とさず頑張りなさいよ」
「ありがとうごぜえます」

 数日後、ご隠居さんがまた銭湯へ行こうと橋を通ると、先日と同じ様に乞食と犬が寒そうに座っています。
 心の優しいご隠居さんは、また小銭を投げてやりました。
「お前さん。気を落とさず頑張りなさいよ」
「ありがとうごぜえます」
 そしてそれからも、ご隠居さんはその橋を通るたびに小銭を恵んでやりました。

 ところがある日の事、ご隠居さんは急な用を思い出したので、橋の上に乞食が座っているのも忘れて急いで通り過ぎようとすると、あの乞食が立ち上がってご隠居さんを追いかけて来るではありませんか。
 そしてご隠居さんの前に立って、こう言ったのです。
「ご隠居さま、いつもお恵みをありがとうごぜえます。だけど、今日はお恵みを頂けないのですか?」
「へえっ?」
 盲目だと思っていた乞食が、まるで目の見える様に追いかけて来たので、ご隠居さんはびっくりして乞食に尋ねました。
「お前さん、目が見えなかったのじゃないのかい?」
 すると乞食は、手を振って言いました。
「いえいえ、あっしは盲目じゃありません。
 目が見えないのは、あの犬でして。
 ほら、ちゃんと犬の首に、《盲目》と書いた札をかけているじゃあ、ありませんか」
「・・・・・・」
 ご隠居さんは、呆れてものも言えませんでした。

おしまい

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